『僧正殺人事件』ヴァン・ダイン 感想・考察

基本的に国内作品に手が伸びてしまう私。そのため、海外作家はあまり知らないですし、特に古典はアガサ・クリスティに傾倒しているため、出番が回ってこなかったヴァン・ダイン。せっかく『十角館の殺人』(綾辻行人)でも登場していることですし、代表作を読んでおこうと思いました。

『僧正殺人事件』ヴァン・ダイン

どんな作品か

マザーグースに見立てた連続殺人事件が主題となる本作。約100年前の作品ということもあり、訳が若干読みづらいものの、ミステリー小説の原点とも言える重厚なトリックには最後まで読むと脱帽してしまうことでしょう。ところどころに入ってくるお堅い理屈のお話は少々読み飛ばしても問題なく、最後まで読み切って自身の推理が当たっていたかその結末を味わうのが良いかと思います。

コック・ロビンを殺したのはだあれ。「わたしだわ」と、雀がいった!

マザーグースの童謡につれて、その歌詞のとおりに怪奇残虐をきわめた連続殺人劇が発生する。

無邪気な童謡と無気味な殺人という鬼気せまるとり合せ! 

名探偵ヴァンスの頭脳は冴えて、一歩ずつ犯人を追いつめる。

何が面白いのか

見立て殺人の元祖?マザーグースに見立てて起こる殺人事件

この作品が元祖なのかわからないのですが、見立て殺人を扱った作品としては相当に古いものなのだと思います。事件がマザーグースの童話に見立てて起こるため、その恐ろしさ、気違いじみた犯人像が膨らみ、恐怖を覚えます。本作品のオマージュというわけではないですが、これ以降の作品においても見立て殺人を取り扱った作品は多数出てきており、見立て殺人の元祖とも言える作品なのは間違いありません。

エキセントリックな探偵が突き止めた真犯人、そして最後は・・・

名探偵ヴァンスは最終的に犯人を追い詰めていくのですが、その最後がなんともエキセントリック。こんなのありなのか?と思ってしまうほど、今では考えづらい劇的な結末で幕を閉じます。ぜひ本作品の驚くべき結末を確かめていただきたいですね。

以下ネタバレ考察。必ず本を読んだ後にご覧ください。

【ネタバレあり】全体的な感想

海外古典ということもあって、かなり読みづらい作品でしたね。翻訳がイマイチという可能性も若干考えられますが、おそらくは原文そのものが読みづらいのでしょうね、きっと。

ヴァン・ダインの作品は『グリーン家殺人事件』も有名でそちらを先に読むべきだったかな、と若干思った節はあるものの、基本的には独立した物語として読めるため、あまり気にはなりませんでした。しかしながら、やはり本筋とは関係ないご高説には少々ウンザリ気味になったのも確かです。そのへんは読み飛ばしてしまいましたね。

結構きつかったのが、かなり単調な訊問パートの繰り返しでしょうか・・・。探偵小説なので仕方がない、と評されるのかもしれませんが、これって面白いのかなとも感じてしまいました。当時のスタンダードと言えるのかもしれませんが、やはり今こういった動きのないエピソードを淡々と描き続けるというのは読者離れを引き起こすんじゃないかなとも思います。

さて、結末ですが、本作に用意された2転する展開は現代の作品でもあまり見慣れず、なかなか面白かったと言えます。ラストの葡萄酒のすり替えも読んでいる限りは一か八かの大勝負のような印象もあり、不確実なやり方で押し切った印象で驚いています。相手をいちいち裁判にかけて・・・とするくらいならば殺してしまえ、という探偵の心理は強烈でした笑。

最後に申し付けておくと、語り手はどこの誰なんでしょうか。当時の読み方だとそこは許容されていたのかな?

【ネタバレあり】伏線と考察

誰が殺したのか?よりもどうして殺したのか?が気になる

あまり本作品は考察するポイントもない・・・といってしまうと大げさなのですが、時代がずれている以上、見当違いな論点を出してもしょうがないのかなとも感じます。エドガー・アラン・ポーの作品の結末に「こんな結末今じゃ通用しない!」など言っても意味がないですからね。

本作品を読みながら気になったのは、「誰が殺したのか」という問題よりも「どうして殺したのか」という問題でした。「どうして殺したのか」は「なぜその手法で殺したのか」も含まれる疑問ですね。

「誰が殺したのか」という観点については、まぁ数学者がいる段階で大体絞られ、怪しい動きをしていた人物がそのまま犯人だった、というそこまでびっくりする話ではありません。

「アーネッソンは、これらの狂気じみた犯罪の動機について、すでに暗示をあたえてくれている」とヴァンスははじめた。「教授は、その学会における地位が、後輩によって奪われようとしているのを知っていた。その精神力と洞察力は衰えはじめた。原子構造についての、教授の新しい著述は、アーネッソンの助力があってはじめて完成できることを悟った。養い子に対する、言いようもない憎悪心が、その心中に湧き上がってきた。(略)」

『僧正殺人事件』ヴァン・ダイン P.420

一方で「どうして殺したのか」についてはかなりモヤモヤしながら読まざるを得ず、最終的には才能に対する嫉妬のような感情が原因だった旨が明かされますが、「なぜその手法で殺したのか」も少々理屈が弱い印象ですね。抑圧された憎悪の感情があって、思いついたからとはいえ、こういう殺人手法を採用するのはどうなんでしょうか。とはいえ、当時というか古い作品の多くには結末を細かく書かない風潮もあったと聞きますから、現代のものさしで評価するのは少々難しいのかなとも感じます。


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