『七回死んだ男』西澤保彦 感想・考察

今回は西澤保彦氏の『七回死んだ男』を紹介します。本作品は、第49回日本推理作家協会賞(1996年)の最終候補となった作品です。同年の賞は京極夏彦『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』と梅原克文『ソリトンの悪魔』が受賞しており、残念ながら候補に留まってしまったのですが、本作品はなかなかの傑作と言えます。

『七回死んだ男』西澤保彦

どんな作品か

『七回死んだ男』とぶっそうなタイトルを冠していますが、内容はもっとコメディ感溢れる軽めのタッチの特殊設定ミステリとなっています。本作品は、同じ日を何度もループするタイムリープものの設定に加えて、祖父の遺産を狙った後継者争いが発端となるドタバタミステリです。設定がかなり奇抜なのですが、それ以上に中身の面白さも詰まっているので、先入観なしに読んでいってほしい作品と思います。

特異的な体質によりある一日を何度も反復して繰り返してしまう主人公。その反復が起きた日に祖父が殺されてしまう。

反復の度に発生する殺人。殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む主人公。

しかし、様々な試みを実行するが、どうしても殺人が防げず、再び祖父は殺されてしまう。

一日が反復されている事実を唯一人認識できる主人公は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くすが・・・。

【ネタバレなし】何が面白いのか

特殊な設定が面白さを引き上げる

本作品の特徴として挙げられるのが、特殊なSF的設定であることは間違いないでしょう。時間を繰り返すタイムリープという概念がありますが、本作品の主人公・久太郎(ひさたろう)は本人の意思とは無関係にタイムリープをしてしまう体質であり、その体質が事件の展開をより複雑に、より面白くさせています。

普段の推理小説・探偵小説では味わうことのできない特殊な環境下における推理を楽しめること間違いありません。

タイトルとは打って変わってかなりポップな展開が面白い

正直読み終わった後だと、タイトルで大いに損をしているなと感じてしまう内容の本作品。『七回死んだ男』という響きからシリアスで重厚な展開を予想させてしまいますが、本作品が描こうとしている世界は、「やむを得ず何度も同じ日を繰り返してしまう極々普通の青年が殺人事件に遭遇し四苦八苦する姿」を描くコメディとなっています。コメディというと大げさなのですが、文章のタッチからすると「クスっと笑ってしまう」表現や展開が盛り込まれており、最後まで楽しく読めてしまうでしょう。

特殊設定の中の見事なトリックを見破れるか

本作品は特殊設定を土台に話が展開していき、殺人事件の解明・解決を進めていくミステリー小説です。読み進めていくにつれて、様々な事実が明るみになりますが、多数の伏線が織りなす結果が導き出す本作品のラストシーンはなかなかに爽快なものとなっています。

ラストシーンに賛否あったりする意見もまぁあるのですが、張り巡らされた伏線が綺麗につながるプロットの良さなどを考えると、ミステリー好きなら一読しておきたい作品と言えるのではないでしょうか。

以下ネタバレ考察。必ず本を読んだ後にご覧ください。

【ネタバレあり】全体的な感想

新しい感覚ですね、特殊設定の中でミステリが成立する小説というのは。最後まで面白く楽しく読むことができました。

元々、『七回死んだ男』というタイトルがセンセーショナルで、目を引くため、特殊設定の方に注目されてしまうのかもしれませんが、推理小説として本当よくできていると感心してしまうほど巧妙に伏線が張り巡らされていたのを最後まで読んで感じ取れました。『七回死んだ男』が主人公だったのかと思いきや、それは祖父のことだったのは、私の思い違いでしたが笑。

また、9回ループしてしまう設定と主人公の名前「久太郎」(あだ名はキュータロー)がかかっている点も遊び心があっていいなと。コメディ要素も多く、主人公が頭脳明晰の探偵などではなく、一人の凡庸な人間として描かれている点も個人的に好きなポイントです。

当初は殺人犯を推理する視点で読んでいましたが、途中からそもそも時間のループ上、誰かしらが殺人を犯す運命にあるという現実を理解し、ではどうやって殺人を防げるのか、という違った視点で推理する点も面白さに一役買ったと言えます。

【ネタバレあり】伏線と考察

祖父が毎回死ぬ理由は多量の飲酒が原因

本編を読むと、9回のループの中、7回死んだ祖父はそのほとんどが飲酒が原因で死んでいることが示唆されます。7回のうち、1度は転落死、1度は舞による殺害説、1度は久太郎死亡による生死不明パターンがありますが、大体は飲酒が原因で倒れたことになります。

当初は母屋への出入りから、出入りした人間が殺害したと主人公・久太郎は考えますが、物語が進むと祖父が多量の飲酒をしたことにより、死亡した事実が判明し、それをもみ消す形で花瓶による殴打跡を残された(友理へ容疑を被せようとした)ことが事の真相となっています。

日付を誤解させる一種の叙述トリック

これもなかなか見事な仕掛けでしたね。違和感は全くありませんでした。

1月2日の出来事と1月3日の出来事が混じっており、9回のループのうちの初回と誤解した回は「1月2日」であった、という事実はなかなか巧妙だったと思います。久太郎が認識していた残りの8回とは別に、8回の間に久太郎が死亡した回があったことで、9回のループの辻褄が合う仕掛けというのも上手いな~と思ってしまいましたね。

語り手である久太郎自身がすでにトリックにかかっている、という点も見破るのが難しくなった点かと思います。

このへんは本編にてかなり丁寧に解説されているため、あまり述べることもないのですが、このループの仕掛けが「祖父の家で着させられるトレーナーとちゃんちゃんこ」であったことで誤解を生じていたりと細かな部分にも納得できますね。

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