『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人 感想・考察

今回は岡嶋二人『そして扉が閉ざされた』を取り上げます。結構古い小説なのですが、コンパクトながらシンプルなトリックでここまで惹きこまれる世界を描く本作品はなかなかの傑作と私は感じています。感想は人それぞれなのは間違いないのですが、この時代の良作は結構私好みなんですよね。シンプルなミステリー小説は、無駄に凝った物理トリックを使った小説の何倍も優れていると感じてしまう価値観なので笑。

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人

どんな作品か

岡嶋二人氏(コンビ名)の代表作の一つに挙げられる本作品。だいぶ古い作品なのですが、刊行当時「このミステリーがすごい!」(1988年・国内編第6位)を獲得しています。核シェルターに閉じこめられた男女4人が、事故で死んだと思われた咲子の死因について推理をしていく本作。全く感情移入ができない個性トゲトゲな登場人物ばかりですが、どんどん先に読ませてしまう展開には目が離せません。

島田荘司氏の解説にて「四人のうちに確実に犯人が存在するのだが、同時に、存在しないという不可解な事実である。」と評される本作。今読んでも非常に面白く傑作と言えるのではないでしょうか。未読の方はぜひ。

富豪の若きひとり娘が自動車事故で不審死してから3ヵ月が経過した。

娘の母親は、彼女の遊び仲間だった男女4人をそれぞれ自宅へ招き、眠らせる。そして、彼らを地下シェルターに閉じこめてしまった。

地下シェルターの中で気づく4人。母親は4人が娘を殺したと考えている。

あの事故の真相は何だったのか? 4人が死にものぐるいで脱出を試みながら、彼女を殺したのは誰か仲間4人同士で疑いを始めていくことに・・・。

記憶を呼び起こしつつ、彼らは自分たち自身で犯人が誰なのか推理していくのだが・・・。

何が面白いのか

核シェルターに閉じこめられた男女四人

超特殊な状況です。まさかの舞台は核シェルターでスタート笑。核シェルターからどうやって物語が展開するのか気になりますし、何より核シェルターからどうやって脱出するのかが気になります。

本作品はとある経緯で核シェルターに閉じこめられた男女四人を描くのですが、この特殊な舞台設定が目を引きますね。こんな小さな閉鎖空間でどうやって話を膨らましていくのか気になるところですが、過去の事件との関連からどんどん話は盛り上がっていくこととなります。動きは最小限なのに、推理はどんどん広がるこの不思議な状況は特筆すべき点でしょう。

咲子が死んだ自動車事故、その真相は・・・

本作の肝となる事件が、3か月前に起きた咲子(さきこ)が死亡した自動車事故となります。本事件は不審な点が多いものの、警察は事故死として片づけてしまっており、事件の全貌がベールに包まれたままとなっています。

彼ら四人は当時の記憶を呼び起こし、本事件の真相に迫っていくことに。すると、咲子を殺した人物が四人の中にいることがわかってきます。犯人は誰なのか、誰が嘘を付いているのか、その恐怖を覚えつつ、さらに物語は進んでいきます。

以下ネタバレ考察。必ず本を読んだ後にご覧ください。

【ネタバレあり】全体的な感想

1988年の作品。80年代後半あたりの作品は非常にシンプルながら、長編小説としてコンパクトに読むことができます。当時の衝撃度合はどの程度だったのかやや気になるところですが、最後の結末に至った際の「そういうことだったのか・・・」という感覚は程よく、小説の長さと掛け合わせて非常に良い無駄のない作品だと感じました。

登場人物4人はいずれも感情移入できない少々難アリ人物ばかり。読んでいる最中は「全員バッドエンドで終わらないかな」と思ってしまったのですが、このへんはまぁあまり気にしなくても良いでしょう笑。

本作のトリックの要、叙述トリックなのですが、犯人自身が殺したことを自覚していない状況というのは当時なかなか珍しかったのではないかと思います。そのため、ミステリー小説初心者などは今でも結構な衝撃を体験できるのではないかなと。最近のミステリー小説は、もう凝りに凝っていて、トリックの二重三重掛けは当たり前の世界に突入していることもあり、シンプルなトリック一本で書き上げた本作品の魂のようなものはわかりやすくて非常に私好みです。

読んでいる最中は色んなパターンを考えたのですが
・雄一が犯人であり雄一以外の3人はその記憶があり、雄一に殺害したことを自白させる演技をしているケース
・雄一は殺そうとしたが、実際は殺害未遂に留まったケース(この場合、咲子は真犯人により殺害されたことを想定)
・咲子殺しが鮎美と正史の共犯で行われたケース
など挙げてみたものの、各会話の発言とうまく整合つかない状況であり、なかなか真相には至れなかったのが悔しかったですね。

あと、この作品を「クローズドサークル」ものと呼ぶ方が若干いるようで、何だか違和感を感じるのは私だけではないと思います。クローズドサークルだと、閉じこめられた人間は大体死亡するのが定説なので、そういった意味でもちょっと違うかなと思いますので、本作はクローズドを生かした作品というわけではないでしょう。

とはいえ、閉鎖空間の中で非常に動きの小さい場所にもかかわらず、中盤以降一気に読ませてしまう面白さがこの本にはあり、読後の余韻含め当時の傑作に入るのではないかと思います。

【ネタバレあり】伏線と考察

誰が咲子を殺したのか

本作の最大のテーマ、3か月前に起きた咲子の事故。警察は咲子の死因が事故死と結論づけた模様ですが、咲子の母親は4人の中に犯人がおり、その中の誰かが咲子を殺したと考えているようです。では、誰が咲子を殺したのか、その犯人捜しが核シェルターの中で始まるわけなのですが・・・。

核シェルターの中に残っていた遺品、つまりは血に塗れたタオル、咲子のイヤリング、犯行に使われたと思われるアイスピックが出てきたことで、犯行現場が核シェルター内であり、事故が偽装されたものであると推理されます。

最期の最期まで読むと、犯行現場も核シェルターではないんですよね、犯人を庇おうとした人物がわざわざ死体を移動させてきて、核シェルターに運んできた流れが描かており、推理の段階で語られている情景は真実ではなく、真犯人が別荘2階で咲子を突き飛ばした結果、アイスピックが延髄を切断し即死に至らしめたという結果を、後の鮎美が発見した、という流れとなっています。

そして、最後まで自分が犯人であることを自覚していない「雄一」が本作の犯人となっています。

なぜ誰も犯行を行った記憶がないのか

本作の不思議なポイントとして挙げられるのが、4人のうち3人は本当に無実なのですが、誰一人として犯行つまりは殺害をした痕跡のある発言がないことです。終盤で、死体の移動を担った正史が核シェルター内の発電設備を自ら触ってしまったため、過去に核シェルターにいたことが発覚してしまいます。しかし彼は徹底して自分自身が犯人ではないことを主張します。そして、犯人は自分だと主張する鮎美・・・。

では、真犯人の雄一は殺害したという自覚が全くありません。

なぜ自覚がないのかというと、咲子を突き飛ばした際に偶然アイスピックが延髄を切断する位置に当たったことからそのような無自覚の状況が発生したことがわかります。この点については、雄一が部屋を出る際、雄一自身はあくまで咲子が途方に暮れているような表情をしているように描写されていることからも誤解しやすい状況であることが示唆されていますね。

突き放されて、咲子はそのまま揺り椅子に腰を落とした。咲子の大きく開けた口から息を吸い込む音が聞こえた。椅子が激しく前後に揺れた。咲子は、目と口を大きく開けたまま、雄一を見つめた。

雄一は、そのまま部屋を出た。ドアを開け、最後にもう一言だけ言った。

「君とはもううんざりだ。俺は、鮎美が好きなんだ」

咲子は、驚いた表情のまま、雄一を凝視していた。雄一は、勢い良くドアを閉めた。

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人 P.106

ヒステリックかつ横暴な咲子に同情する要素はなく、さらに他の女にすぐに手を出そうとする雄一の不誠実な態度に不愉快な気持ちを抱かざるを得なかったのですが、まぁ自覚がないのは偶然による事故が原因だったようです。

ただ、「そんなに都合よく刺さるものなの?」と思う部分もありますね。『1Q84』(村上春樹)など殺し屋が登場する小説でも、延髄切断による暗殺方法が出てきますが、こういう偶然の事故での死亡がどれくらい偶発的なのかはわかりませんが、理屈上はあり得るようです。

犯人をかばう鮎美と犯人が鮎美だと誤解する正史、そして自分が犯人だと気づていない雄一

本作のミスリード要素として、事件に関わった人物同士がそれぞれ誤解をしていた点が挙げられます。
・自分が犯人だと自覚していない雄一
・雄一が殺意をもって殺したと考えている鮎美
・鮎美が殺したと考えている正史

鮎美は別荘から飛び出していった雄一がパブから電話を掛けてきたときの会話で、犯行隠しをほのめかす会話をしている旨が作品終盤で明かされます。また細かい部分でやたら鮎美が雄一を庇う箇所、雄一に特別な感情を抱いていることを描いている箇所が複数あります。

車が後ろで停まり、ドアの開く音がした。振り返った。

「雄一さん!」

降りてきたのは、鮎美だった。続いて、正史と千鶴が車の窓から顔を出した。鮎美は雄一に駆け寄り、いきなり彼に抱きついた。

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人 P.159

「なんで抱きつくの?そんな関係が進展してたんでしたっけ」と感じるシーン。また、別の核シェルター内での推理を巡らせる場面にて以下のシーンが描かれています。

千鶴は、叫びながら雄一のほうに向きなおった。

「あなただけが閉じこめられりゃいいのよ!」

「千鶴!」鮎美が声を上げた。「まだそんなこと言ってるの? いいかげんにしなさい」

「雄一さんが咲子を殺したんだ! みんなあいつなんだ!」

いきなり、鮎美の手が千鶴の頬に飛んだ。

「黙りなさい!」

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人 P.164

たしかに核シェルターに閉じこめられ、一種のパニック状態に千鶴が陥っているようにも見えます。ですが、一方で雄一に対する疑惑を過度に意識した行動のようにも見えます。そして、千鶴を論破した後のシーンで以下。

千鶴はそのまま壁のほうへ歩いて行った。そこにしゃがみ込んだ。

雄一は鮎美に笑いかけようとした。その笑いを途中で引っ込めた。チラリと一瞥を寄越した鮎美の眼に、雄一に対する怒りのようなものを感じたからだ。

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人 P.168

「雄一が犯人であること」を知っている鮎美からすると、なぜ自分がこんなにも犯人を擁護しなければいけないのか、という心境なのかもしれません。そして、雄一本人はずっとシラを切っている状態で、鮎美が偽装して助けてくれたことを自覚していない態度を続けているため、まぁ怒りのひとつも出るでしょうね。もちろん結論を知っているから、そう解釈できるのであり、初読の際はなぜそこまで怒りを抱くのか、という一種の疑念程度でしかありませんでした。

この物語で一番不憫なのは正史であることは間違いないでしょう。4人の中で一番まともな性格をしていることもあり、一番同情できるのではないでしょうか。彼は鮎美という狂人を好いてしまったことが過ちであり、その感情から死体隠蔽を手伝ったという点が間違っていたのですが、その鮎美の心中は正史など一ミリもないのが切ないところです。婚約者になった経緯も死体隠蔽の証拠隠しのためですからね。

さらにそこに拍車をかけるのは、正史が思い込んでいた「鮎美が咲子を殺した」という事実は間違いであり、実際は「雄一が殺した咲子の死体隠蔽をしていた鮎美を手助けした」という何とも皮肉な勘違いも付いているという・・・。

本作品は、結末にて無事核シェルターを脱出できるのですが、その後の話は明確に書かれていません。警察に逮捕されたのはおそらく間違いないのでしょうが、鮎美・正史は死体遺棄容疑などで逮捕、雄一は傷害致死罪(故意ではないため殺人罪ではない)で逮捕されるのだと思います。

咲子の親族は母親も最後自殺しているため、被害者親族がいない状況であり、刑事罰のみとなる可能性は高く、さらに本事件は暴力を振るったわけでなくあくまで突き飛ばした結果での事故死であるため、執行猶予なども付く可能性も高いのかなと想像しました。

そうすると、この雄一は無罪とはいかないまでもほとんど罪らしいものを背負うこともなく、今後の私生活をのびのび鮎美と暮らしていくと想像され、非常に不快な結末だなぁと感じる自分がいます笑。

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