綾辻行人氏の「館シリーズ」第六作目の『黒猫館の殺人』。なんか黒猫と聞くと若干可愛いイメージといいますか、荷物を配送してくれるイメージといいますか笑。少々ポップな感じもするんですが、ちゃんと殺人事件が起こるミステリー小説となっています。
目次
『黒猫館の殺人』綾辻行人
どんな作品か
綾辻行人氏の「館シリーズ」の第六作目にあたる『黒猫館の殺人』。第六作まで読み進める読者は相当なミステリー好き、ということもあり期待値が高くなりがちな本作品。とはいえ、用意されているスケールの大きなトリックには驚愕させられましたね。犯人捜しはもちろん本作の主軸となってきますが、トリックそのものを見破ることができたら、大したものだと思います。本作も読み終わった後の爽快感はなかなかです。
大いなる謎を秘めた館、黒猫館。 火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬(あゆたとうま)の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実(ししやかどみ)と江南孝明(かわみなみたかあき)は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。 深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!?
何が面白いのか
奇妙な館と過去の回想、そして現在が織りなす摩訶不思議な展開
本作品は鮎田冬馬(あゆたとうま)と呼ばれる記憶喪失の男が所持していた事実か架空かわからない手記をもとに話が進んでいきます。その中で出てくる「黒猫館」。この館は本当に存在するのか、そこで起きた出来事は本当のことなのか。様々な疑念が湧きつつ、物語は進んで行くこととなります。手記に書かれている謎の数々、そして現実に見える世界とのギャップ、謎だらけの世界に読者を誘います。
シリーズ屈指の大仕掛けに驚愕
本作品は例に漏れず、仕掛けが存在するのですが、今回の仕掛けの大きさはシリーズ屈指と言えるのではないでしょうか。読者が頑張って推理すれば当てることができる範疇だとは思うのですが、私にはとてもできなかった推理です。ぜひ挑戦してみていただきたいと思います。
読んだ後、つまりは結論を知った後の感想だと、私はこういうトリックが結構好きです。
以下ネタバレ考察。必ず本を読んだ後にご覧ください。
【ネタバレあり】全体的な感想
『時計館の殺人』の次作であり、超長編にあたる『暗黒館の殺人』の前作にあたる『黒猫館の殺人』。私は結構この壮大なトリックが好きです。
あまり事件性がなく、殺人がほとんど発生していないものの、黒猫館がまさかオーストラリアのタスマニアを舞台に繰り広げられた話だとは全く想像もしていませんでした。こんなスケールの大きなトリックもありなのか、と驚いてしまいましたね。
もちろん中村青司がオーストラリアで建築士登録されているのかは多分に懐疑的な印象を持ちましたし、学歴と青司の渡豪経験の有無などが整合しているのかは非常に怪しい気がしています笑。『暗黒館の殺人』の巻末に付録されている中村青司の年表を見ると、黒猫館は1970年に設計されている旨の記載がありますが、1964年には角島に移住しており、オーストラリアでの建築士としては違法の中、建築・設計をしたのかなぁと勝手な想像を巡らせました。
推理小説としては他の館シリーズに負けず劣らずの衝撃展開が用意されており、なんだかんだ読んで損しない一冊と感じた次第です。
【ネタバレあり】伏線と考察
鮎田冬馬の正体
本作品の最初の疑問点、「鮎田冬馬の正体」は推理の難易度としてはそこまで高くないのかなと思います。「鮎田冬馬=天羽辰也(あもうたつや)」であったことは終盤で明かされますが、読者の何割くらいが的中させたのでしょうか。一方で、外見的特徴が過去と現在で似通っていない点や記憶喪失が本当なのかどうか、という点も相まって若干確信を持つのは難しい印象でしたね。
細かいヒントは様々なところに描かれていて、例えば椿本レナ(つばきもとれな))の死体を検死するシーンでは以下のような描写がされています。
もう一度、右手を持ち上げて指の関節を調べてみた。ここにも僅かながら硬直が出ている。すると死後、少なくとも七~八時間は経過している訳か。
『黒猫館の殺人』P.133
鮎田冬馬がただの執事とは思えない医学的知見があることを指し示すシーン。少なくとも学歴・職歴などのバックグラウンドを持った人物であることがここで確定します。それ以外には身体的特徴、つまりは内臓逆位症から利き手や咄嗟の仕草などが異なる点も示唆されていました。
ちなみに、内臓逆位症という単語をこの本で久しぶりに目にしたこともありますが、人口的にはかなりの少数なんですよね。調べてみると、お笑い芸人のチャンス大城氏も内臓逆位の人であることを最近知りました。
黒猫館と白兎館
やはり最も驚いたポイントがこれですね。オーストラリア・タスマニアにある黒猫館と北海道・釧路にある白兎館。本編の中で描かれる手記の中では黒猫館の出来事が綴られており、現在の鹿谷・江南が目にするのは白兎館。もちろん、現在の二人が黒猫館を目にしてはいないのですが、おそらくそこに存在するであろう黒猫館というスケールの大きな設定は驚愕の事実でした。
手記の中で記された伏線も設定が外国のオーストラリアを舞台にしているのであれは、いずれも整合が付く話で、ひょっこりほいほいついてきた椿本レナの存在は偶然要素の高い部分でもありますが、まぁその彼女がいなかったら事件性もないお話になっていたので、全体を通して良きと捉えるのがきっと良いのでしょう。
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