”賃貸VS購入”の議論の中で、賃貸派が出す意見として、引退時に割安な物件をキャッシュで購入する、というものがあります。一見すると理にかなっているような気もするこの意見。実は、大きなリスクを孕んでいるとも言えます。今回はそんな生涯賃貸派の方の戦略について、考察してみました。
目次
賃貸派が抱える大きな問題
”賃貸VS購入”の議論は尽きることがない話であり、
- キャッシュフローはどちらが得か
- どれだけ生きれば購入派が得になるのか
- 買い替えの諸経費を含めたらそもそも得なのか損なのか
と言ったようないろいろな議論が飛び交っているのが常ですね。
もちろんどちらも代えがたいメリット・デメリットがあるので、最終的な優劣をつけることは難しいのですが、賃貸派に限って言うと非常に大きなデメリットが存在するのは確かです。
引退後、賃貸生活を続けることは困難
賃貸派が抱える致命的な問題は、定年などで仕事を引退した後は賃貸生活を続けることが非常に難しくなるという点です。
老後の所得は年金が中心となり、足りない部分はそれまでに蓄えてきた貯蓄を切り崩すような生活スタイルにならざるを得ません。死ぬまで働ける体力と働ける場所があれば、多少の収入が入るため、賃貸生活でも暮らしていけますが、その他の不労所得などがない場合には相当のジリ貧生活になると予想されます。
そのため、賃貸派の方々の多くは引退後も賃貸を続けるという考えを持つのではなく、老後も安定して暮らすための別の戦略を持つ必要があります。
引退時に割安物件を購入する戦略は可能なのか
賃貸派の方々の多くは、老後も賃貸で暮らすわけではなく、引退時(または引退前後のタイミングの良い時期)に郊外などの不動産価格が比較的安い地域の戸建てなりマンションをキャッシュで購入するという戦略を持っています。
もちろん全員がそういった戦略を考えているわけではありませんが、どこかのタイミングで割安な不動産を購入し、老後の住居費用を抑える戦略が比較的多く支持されているのは間違いありません。
ただ、この戦略には不動産を現役時代に購入するのと同じくらい(見解によってはそれ以上)のリスクを抱える戦略であるとも言えます。
リスク1 引退時に一括購入できるだけの貯蓄ができるか
一番のリスクは、引退時までにちゃんと貯蓄ができるのか、という点でしょう。
貯蓄は、現役バリバリに働いているときにしなければいけないため、日常の出費に耐えながら、将来の不動産購入用に資金を貯め続けなければなりません。
3,000万円貯めるために、毎月8万円超えの貯蓄が必要
仮に30歳から60歳までの間に住居費用を積み立てて3,000万円貯めようとする場合、年間100万円(月8.3万円)を貯蓄しなくてはいけない計算となります。仮に目標額を1,500万円としたとしても、月々4万円の貯蓄が必要になる計算です。
二世帯暮らし、手厚い家賃補助の会社勤務でないと厳しい現実
日常生活のコストとして一般的に挙げられるのは、
- 現在の住居の賃料
- 子供の養育費・教育費
- 老後の生活費等のための貯蓄
- その他医療費
などが挙げられます。現役時代は現役時代で相当な出費が必要なのは間違いありません。これらとは別に、住宅費用を貯め続けなければならないため、親と二世帯暮らしをするか、相当な家賃補助を提供してくれる会社に勤めるか、などの周辺環境が必要となります。
リスク2 インフレリスクを抱えることができるか
あまりピンと来ない方がいるかもしれませんが、賃貸派はインフレリスクを抱えなければなりません。インフレリスクとは、簡単に言うと、物価が上昇していくリスクを指しています。
現金を貯めこんでも、将来同じ価値があるとは限らない
賃貸派はせっせと給与の一部を住宅資金として貯蓄していくわけですが、現金をそのまま積み上げたとしても引退時に同等程度の価値が保てているかはわからないわけです。
日本は20年以上もの間、物価が上昇しないという世界的に稀な経済状況に陥ってしまっていますが、今後も物価が上昇しないという保証はもちろんありません。
インフレリスク回避のための資産運用は更なるリスクを抱える
基本的には貯蓄で貯めた住宅資金を株式投資なり、インフレリスク回避のための資産運用をしていくことが定石になるかと思いますが、それら有価証券の価格変動リスクを背負うことはインフレリスク以上にリスクを抱えることとなり、大きなデメリットとも言えます。
※ちなみに、有価証券なりの資産運用そのものは私個人は否定しませんが、あくまで総資産の一定割合に留め、リスク性資産は限定すべきと個人的には考えています。
購入派は売却を考えない限りインフレリスクの影響は小さい
マイホーム購入派も不動産の価格変動リスクを背負う点は一緒ですが、不動産価格は基本的に経済の動きと連動しているため、インフレの影響はかなり小さくなります。また、含み益/含み損があろうとなかろうと、不動産を売却する理由がない限り問題にはならないという点が異なってきます。
リスク3 引退後に物件価格は下がっているのか
賃貸派の方々の多くに見られる意見として、自分が定年を迎えて引退する頃には不動産価格は大きく下落しているだろう、という意見です。
もちろん、日本は人口減少社会に突入しているため、日本の不動産価値は低下していくことが予想されます。ただ、本当に”賃貸派の人が”買いたい物件の不動産価値が下がっているのでしょうか。
利便性の高い地域の不動産は値下がりしづらい
歳を取ってから、駅から遠く、近くに買い物する場所もなく、利便性の悪いエリアを選べばかなりの高確率で金額の安い不動産を購入できるでしょう。しかし、ターミナル駅に近く、周辺の住環境も整っている物件の資産価値が下がる可能性はかなり低くなることは現段階でも想像できます。
都内不動産所有者/海外投資家などの購入層が流れてくる可能性
少なくとも賃貸派に限らず、現役時代に資産価値の高い不動産を購入している人なり、しっかりと住宅資金を貯めてきた人たちが引退すると、都心の中心部にわざわざ住む必要もないため、郊外でも利便性の高いターミナル駅周辺の物件を選択するのは極々自然に見えます。
また、将来的に外国人の流入も加速していくため、資金力のある海外投資家などは利便性の高い物件を軒並み買っていく可能性も十分あります。
これだけ外部要因が複数存在し、将来不動産価格は下がるだろう、と考えている人が多い状況では、目当ての地域の不動産価格はそう狙い通りに下がったりはしないでしょう。
リスク4 物件購入経験なしに適正価格の物件を購入できるのか
意外に重要なのは、引退時まで物件購入経験のない人が適正価格の物件をちゃんと購入できるのかという問題があります。
新築物件価格には新築プレミアムが含まれている
実は、不動産マーケットにおける価格設定はかなり経済の動きとも連動しており、新築の場合ですと土地価格に、建築価格、広告費用、施行会社の利益、不動産販売会社の利益など様々なプレミアムが加算されて販売されます。
中古市場は売り手の希望価格で溢れている
一方で、中古価格市場ではプレミアムのようなものはありません。周辺不動産の価格相場による売り手との相対取引となるため、インターネット上で出回っている物件価格は売り手の希望価格で溢れていることになります。
この売り手希望価格の中には、割高な設定、割安な設定のそれぞれが混在しており、実際に物件状況などによって本来の価値を見極めることは素人にとって難しいのが現状です。
知識の少ない高齢者が適正価格の物件を掴めるのか
そんな複雑な価格設定の不動産マーケットで、不動産購入経験のない老人一歩手前となった人が簡単に好みの物件を見つけることができるでしょうか。下手をすると、不動産営業マンの人柄に押されて、予算内で販売されている物件の中から、当初の希望とは異なる物件/相場価格から乖離した割高物件を掴んでしまう可能性も否めません。
まとめ:賃貸派こそ十分なリスク管理を
賃貸にするか購入にするか、という議論に結論が出ないのは仕方がないのかもしれません。ただ、賃貸が抱えるリスクには、なかなか無視できない側面があります。
引退時に不動産を購入するという戦略は一見理にかなっているかのように聞こえますが、現実的に考えると様々なリスクを抱えざるを得ません。決して賃貸派を否定するわけではありませんが、もし賃貸で現役時代を過ごすのであれば、それ相応の十分なリスク管理が必要であることは間違いないでしょう。以上、ご参考まで。