公的年金の支給開始はいつから?

自営業者やフリーランスの方であれば国民年金保険料を毎月支払っているかと思います。また、会社勤めの方で厚生年金に加入している方であれば厚生年金保険料が毎月給与から天引きされているかと思います。現役時代にはほぼ必ず支払っている保険料の見返りに私たちは将来国から年金を受け取ることが可能です。では、年金はいつから受け取ることができるのでしょうか。今回は年金の支給開始年齢、その繰上制度、繰下制度について解説します。

公的年金の支給開始年齢

公的年金の仕組み

公的年金には国民年金と厚生年金があります。国民年金や厚生年金の仕組みについてはいろいろと難しいルールがあるので今回は割愛しますが、原則的には20~60歳まで保険料を拠出した期間および拠出した期間の保険料に応じて、将来の年金額が決定する仕組みとなっています。

将来受け取ることができる年金額は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類あります。ただ、自営業者かサラリーマンかで受け取れる年金額は異なります。簡単に書くと、

  • 自営業者等(第1号被保険者):老齢基礎年金のみ
  • サラリーマン等(第2号被保険者):老齢基礎年金+老齢厚生年金
  • 専業主婦(第3号被保険者):老齢基礎年金

となります。

原則65歳から年金を受け取ることができる

前段で将来受け取ることができる年金額には2種類(老齢基礎年金と老齢厚生年金)あると述べました。現在の法令では、これら2種類の公的年金は原則65歳から受け取ることができます。

MEMO
かなりマニアックな話ですが、1944年の厚生年金保険法では男女ともに支給開始年齢を55歳としていましたが、その後の予想を上回る少子高齢化の進展、平均寿命の伸長があったことや、長期に亘る経済の低迷も加わり、公的年金財政の健全化のために支給開始年齢を60歳、65歳と引き上げてきました。
※国民年金は厚生年金と異なり元々支給開始年齢65歳となっています

支給開始年齢については、2000年(平成12年)法改正による経過措置期間中であり、1966年4月1日以前に生まれた女性は報酬比例部分(いわゆる老齢厚生年金)について65歳より前から受給することが可能です。

繰上受給:60歳から年金を受け取る

原則65歳から年金を受け取ることができる公的年金ですが、繰上制度を利用して65歳より前の年齢から年金を受け取ることができます。ただ、年金を早く受け取ることができる点はメリットのように聞こえますが、この繰上制度を活用すると、受け取ることができる年金額が減少してしまうというデメリットがあります。

減額率は「0.5% $\times$(繰上請求月~65歳到達月の前月)の月数」として計算され、

  • 60歳から受け取る場合:▲30.0%
  • 61歳から受け取る場合:▲24.0%
  • 62歳から受け取る場合:▲18.0%
  • 63歳から受け取る場合:▲12.0%
  • 64歳から受け取る場合:▲6.0%

の減額率が65歳から受け取ることができる年金額に乗じられます。正直な話、一生減額された年金を受け取ることとなるため、よほどの事情がない限りあまり繰上受給はお勧めできませんね。

MEMO
2020年に成立した年金制度改正法により、繰上受給時の減額率が「0.4%×(繰上請求月~65歳到達月の前月)の月数」となることが決定されました。この繰上減額率や繰下増額率の計算には、年齢別死亡率(今回は2015年(平成27年)完全生命表)や割引率(2019年財政検証のケースⅠ~Ⅵ)の前提に基づいて生命年金現価が等価となるように再算定されています。

繰下受給:70歳から年金を受け取る

繰上制度とは反対で65歳以降から年金を受け取る繰下制度もあります。年金の支給開始を繰り下げることで、増額した年金を受け取ることができるため、長生きできる自信があるのであれば、こちらを選択した方が良いでしょう。

増額率は「0.7%×(65歳到達月~繰下申出月の前月)までの月数」として計算がされます。そのため、

  • 66歳から年金を受け取る場合:+8.4%
  • 67歳から年金を受け取る場合:+16.8%
  • 68歳から年金を受け取る場合:+25.2%
  • 69歳から年金を受け取る場合:+33.6%
  • 70歳から年金を受け取る場合:+42.0%

の増額率が65歳の本来の年金額に乗じられるため、年金額を増やすことが可能です。

MEMO
こちらも2020年に成立した年金制度改正法(施行日:2022年4月1日)により、75歳までの繰下げ受給が可能になります。

第1号被保険者は繰下げ制度を活用した方がよい

元々、第1号被保険者は国民年金にしか加入していないため、老後に受け取ることができる年金は(付加年金等を除くと)「老齢基礎年金」しかありません。老齢基礎年金は公的年金の一部でしかなく、満額でも月額70,000円程度(将来的にさらにマクロ経済スライドによって2-3割ほど減額されます※)となります。やはり「老齢厚生年金」も含めないと老後の生活を維持するには厳しく、他の老後所得と合わせて生活の糧とする必要があるのが現状です。
(※基礎年金部分へのマクロ経済スライドの長期化が現在有識者の間でも問題視されています)

ただ、一般企業が設けている定年制を有していない自営業者は65歳以降も働き続けることが可能です。自営業者は安定的に収入を確保できるかぎり、あえて年金を受け取らず繰下げ制度を活用して受給できる年金額を増やすのが良いでしょう。

また、厚生年金に加入できない派遣社員(パート、アルバイト含む)の場合や年金保険料の未納期間がある場合についても受け取れる年金額が非常に低くなってしまうことが想定されます。こちらも可能な範囲という条件付ですが、繰下げ制度を活用することで将来受け取れる年金額を増やすことが可能です。

まとめ:支給開始年齢は原則65歳。60~70歳(将来的に75歳)で支給開始時期は選択可能

国が定める公的年金の支給開始年齢は原則65歳と定められています。また、繰上制度、繰下制度を活用することで60-70歳(将来的に75歳まで可能)の範囲内の自分の好きなタイミングで支給を開始することが可能です。

老後所得の確保という観点では、可能な限り支給繰下げをした方が年金額が増額されるため、お得であることは間違いありません。特に、1月あたり0.7%もの高い繰下増加率を提供する点を加味すると、(将来マクロ経済スライドによる減額を考えても)まだまだ手厚い制度と言えるのではないでしょうか。

一般的に販売されている生命保険や企業年金、投資信託、有価証券等の配当など金融商品全般を考えてみても年間8.4%の利息を保証する商品をまずありません。男性より長生きする女性であり、持病等なく健康な生活を送っているのであれば、繰下げをした方がよいのは間違いないでしょう。以上、ご参考まで。


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