人事担当者に必要な3つの能力・知識とは?

大企業・中小企業問わず、人事部が果たす役割は非常に大きく、会社の将来性を左右する重要な部署であることは間違いありません。重要な責務を負う人事部においては、全社的により優秀な人材がそこに集まることが望ましいのですが、優秀であればなんでもよいというわけではありません。人事担当者には、人事の業務を担う者として必要な能力が求められてきます。ということで、今回は人事担当者に必要な能力・知識に着目したいと思います。

人事担当者に必要な能力

人事担当者に必要な能力は大きく分けて3種類あると思います。

  • 人事担当者としてのマインド
  • 人事担当者としての実務スキル
  • 人事担当者としての法務知識

今回はこれら3つのスキルについて考えていきます。

人事担当者としてのマインド

人事担当者としてのマインドとは、何でしょうか。そもそも人事部は、人事・労務管理の部署として、

  1. 経営陣へのアドバイス
  2. 他部門へのサポート
  3. 全社的な統制
  4. 全社的な企画推進

などの部門横断的な役割を果たします。

他者・他部門への関心

部門横断的な立場で活躍を期待される場合に必要とされるものは何か。それは、「他者・他部門への関心」に他ありません。人事担当者は他部門の社員の多くとコミュニケーションする必要があり、ときには業務上の解決策を模索・提案する立場として、全社的な相談役として責任を全うすることになります。

この際に、他部門の社員が抱える悩み、他部門の社員から会社がどう映っているのかなど、他者がどのように考えているか、より深いところを探る必要があり、いかに他者・他部門へ日頃から関心を抱いているかという点が大きく影響してきます。

自己犠牲は根本解決にならない

その一方で、人事担当者のなかには、自己や自部門を犠牲にして他者・他部門のために貢献しようとするマインドを持つ方も実際にはおられます。過剰貢献と言いましょうか、昭和的なマインドと言いますか・・・、残念なことにそのような姿勢では、会社全体として問題の根本解決にならないケースがほとんどとなります。

他部門の要望を実現するためには、人員計画上の問題やコスト・経費の問題、労務管理上の問題など様々な障壁にぶつかることは少なくありません。すべての部門の要望を人事部が承諾することは決して最善手ではありません。自社の利益を最大化するための、折衷案を模索することが最重要課題となってきます。

Win-Winの解決を模索する

他部門の社員とのコミュニケーションの中で、相手に迎合するのではなく、自分と他者の双方に敬意を払うことが必要となってきます。他者の主張を聴くだけでなく、自分・自部門の主張も相手に正しく伝え、双方の願望を満たすWin-Winのコミュニケーションが求められます。

人事担当者としての実務スキル

人事担当者は、人事部としての役割を果たすために、「実務的なスキル」「管理的なスキル」の双方を身に付ける必要があります。

「実務的なスキル」には、主に、

  1. ビジネスマンとしての基礎的スキル
  2. 人事担当者としての基本的スキル

に大別することができます。

ビジネスマンとしての基礎的スキル

人事部の役割を達成するために、人事担当者は、ビジネス上の作法・知識、プレゼンテーション能力、Word・Excel・Power Point等の標準的なPCスキルなど、ビジネスマンとしての基礎的スキルを身に着けておくことは必然でしょう。もちろん、それらの能力が同世代・同等級の他部門社員よりもハイレベルであることが望ましいと言えます。

人事担当者としての基本的スキル

また、人事担当者としての基本的スキルとして、人事上の企画を立案する場面などにおいて、「給与・手続き」「労務管理」「採用」「人事企画」等の幅広い業務スキルが必要となってきます。そのため、人事担当者として、これらの業務経験を培っておくことは非常に重要となります。

人事担当者としての法務知識

人事部に配属される社員には、(大会社、中小企業で傾向は変わりますが)プロパー型の人事社員、ジョブローテーション型の人事社員の2種類がいます。

現在は採用段階において、ジョブ型採用(ここでいうプロパー型の社員の登用)、メンバーシップ型採用(ここでいうジョブローテーション型)とで分けて行う会社も増えてきました。ですが、人事担当者としてベースとなる考え方は共通しています。

法務知識は必須事項

人事部で働くいずれの社員においても、労働基準法をはじめとした人事・労務に関する法務知識は学習しておく必要があります。そのため、社労士試験の受験経験があるなど、人事業務について実務経験がある社員には、人事部配属としてのアドバンテージがあることになります。

ただし、日々法令や判例のUpdateが必要な分野でもありますため、継続して習得することが望ましいと言えます。

ジョブローテーション型社員は知識のUpdateが必須

大会社で多いジョブローテーション型として人事部に配属された社員は、配属段階の等級や職務ランクが高ければ高いほど、この「法務知識」の習得をおろそかにしてしまっている傾向が強いです。そのため、知識のUpdateを促す研修プログラムなどに加えた個人個人の努力が必要となってきます。

プロパー型社員は業務範囲に注意

プロパー型人事部員でも、「給与・手続き」「労務管理」といった労務系業務の担当者レベルの経験が少なく、「採用」「人事企画」といった人事系業務の経験中心のキャリアで成長してきた人材だと、ジョブローテーション型の社員と同じように「法務知識」の欠如が見られる場合が多分にあります。プロパー型であっても、業務経験の偏りには注意が必要です。

人事・労務に関する法務知識

人事関連で必要な法務知識として、大きく分けると以下の3つの法的重要性のある法令規則があることを理解しておくと良いでしょう。

  1. 強行法規
  2. 行政通達
  3. 任意法規

以下ではそれぞれの特徴について確認をしていきます。

強行法規

「強行法規」とは、労働基準法や労働条件の最低基準を定めたものを指しています。当該基準に満たない就業規則や労働契約は、該当部分が無効となるため、厳格な対応が必要となってきます。もしも、違反してしまう場合には罰金刑や懲役刑となる場合もあり、社全体のレピュテーションに関わってくるため、注意をしなければなりません。

強行法規の具体例としては、以下のようなものがあります。

  • 労働基準法
  • 労働安全衛生法
  • 労働者災害補償保険法
  • 最低賃金法
  • 男女雇用機会均等法
  • パートタイム労働法
  • 育児介護休業法 など

その他に、社会保障関連の強行法規としては以下のような法律も関連してきます。

  • 雇用保険法
  • 健康保険法
  • 厚生年金保険法

いずれも近年の「働き方改革」等により頻繁に法改正などが行われています。日頃から行政の情報はもちろん、社会全体の動きなども含めて情報収集を行っておくべきでしょう。

行政通達

厚生労働省(または旧労働省)による「行政通達」がこれに該当します。原則的に、「行政通達」は厚生労働省の内部見解に過ぎず、一般企業への拘束力はありません。ですが、厚生労働省の行政指導等はこの「行政通達」を前提に実施され、裁判例もこの「行政通達」を重視した判事をする傾向があるため、実質的には一般企業へも影響が及ぶ点に注意が必要です。

代表的な行政通達は以下に挙げておきます。

  • 発基:事務次官による厚生労働省労働基準局関連の通達
  • 基発:厚生労働省労働基準局長による通達
  • 基収:厚生労働省労働基準局長による省内下部組織からの解釈照会への回答
  • 基監発:厚生労働省労働基準局監督課長による通達
  • 発婦:女性(婦人)局関係の次官通達
  • 婦発:女性(婦人)局長名で発する通達

これら以外にも収監、婦収、女収などがあります。

任意法規

「強行法規」である労働基準法とは異なり、労働契約法は「任意法規」となっています。そのため、自社で作成する労働協約等が労働契約法に則っていなかったとしても労働基準監督官による監督・指導は行われず、刑事罰の定めや行政指導もありません。

労働契約法は民事上の体系的ルールのひとつ

就業形態の多様化し、個別労働関係紛争が増加していた一方で、労働契約に関する民事的ルールについては、民法および個別法律の部分的な規定のみであり、体系的な成文法が過去存在していませんでした。

また、労働基準法の労働契約に関する規定は、「労働契約締結時の遵守事項」に関するものであり、当事者が「契約自由の原則」に則って締結した労働契約の有効性の判断基準を定めた法律がなかったため、実務的な法令整備により生まれたのが労働契約法となります。労働契約法の内容は、これまでの判例法理の積み重ねを条文化したものと言われています。

このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの必要性が一層高まり、今般、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、労働契約法が制定された。

労働契約法の施行について

最高裁判例も重要事項

日本は「制定法主義」を採用していますが、法律解釈のため裁判例を活用しています。特に、最高裁判例は、後継の凡例で「判示を変更」しない限り、下級審はもとより今後の最高裁判決もその内容で拘束されます。一般企業への拘束力はないものの、民事の場における判断の方向性の基準として活用されています。

そのため、人事担当者は、最高裁判例を中心とした労働裁判例の知識も備えておくことが望ましいと言えます。


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