学術的な話は多くの人に敬遠されるため、避けたいと日頃から考えていますが、税制上の大きなポイントとなる部分は私自身にとって、色々メリットも多く備忘録としてまとめたいと思っています。そして、今回は配偶者控除・配偶者特別控除の歴史的背景からその役割についてポイントを押さえておきたいと思います。
目次
配偶者控除・配偶者特別控除の役割
2020年から改正される配偶者控除・配偶者特別控除ですが、そもそも配偶者(特別)控除の仕組みが何のために導入されたのか、知っておくことは非常に有益かと思います。
税制改正の背景の話になるため、詳細は割愛しますが、大まかな論点について確認しておきたいと思います。
自営業者の家庭とサラリーマン家庭との差
実は、配偶者控除のルーツは、自営業者の家庭とサラリーマン家庭との税制上の取扱いの歴史にあります。
配偶者控除が明示的にできたのは1961年(昭和36年)なのですが、それ以前から、自営業者の家族従業員に支払う給料は必要経費として認められていました(青色申告の場合)。また、1961年の年には白色申告の場合であっても、必要経費として認められることが可能となりました。
所得の稼得における配偶者の貢献を挙げ,専従者控除制度の拡充は事業所得者の利益となるため「現在でも負担が重いといわれている給与所得者とのバランスが一層問題となる」としたうえで,配偶者控除の導入は,その「差を薄める」効果があるとした。
配偶者控除制度の変遷と政治的要因(豊福 実紀)
元々、サラリーマン家庭では扶養控除として配偶者を含めて扶養する家族の人数分だけ所得から控除できる仕組み(1961年以前)となっていました。ですが、当時の税制改革の流れでは、農業者の方が雇用者よりも優遇される仕組みとなってしまうことから、大蔵省(現在の財務省)は扶養控除から切り離した「配偶者控除」という減税措置の導入をしたというのが、背景としてあります。
配偶者については、かつて一人目の扶養親族として扶養控除が適用されていましたが、夫婦は相互扶助の関係にあって、一方的に扶養している親族と異なる事情があることなどに鑑み、昭和36年度に扶養控除から独立させて配偶者控除が創設されました。
わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-
専業主婦の無償労働がもつ経済的価値
この配偶者控除が持つ社会的な意味については、いろいろな解釈が可能と言えますが、税制上の背景として定められているのが、「配偶者の貢献」です。すなわち、”専業主婦の無償労働が納税者本人の所得を支えている”という世帯内の状況です。
その後、昭和62・63年の抜本的税制改革の際に、納税者本人の所得の稼得に対する配偶者の貢献に配慮し、税負担の調整を図る観点や、いわゆるパート問題、すなわちパートで働く主婦の所得が一定額を超える場合に、配偶者控除が適用されなくなることから、かえって世帯全体の税引後手取額が減少してしまうという手取りの逆転現象への対応の観点などから、配偶者特別控除が消失控除の形で創設されました。この配偶者特別控除の創設によって、税制上の手取りの逆転現象は解消されています。
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上記は2000年に行われた内閣府の税制調査会における報告書からの引用となりますが、制度的背景の中で配偶者の貢献について言及がなされています。
配偶者控除の仕組みが創設された当時(創設は昭和15年改正)、大多数が専業主婦世帯でした。そのため、家事・育児などの無償労働を世帯内の必要経費として捉え、配偶者控除が納税者本人の年間収入に貢献していると考えられ、専業主婦の家庭内労働には経済的な付加価値があると言われています。
配偶者特別控除はパート問題への対応策
配偶者特別控除は、主に専業主婦世帯を中心に税負担を軽減する観点やパートタ
イムで働く主婦の所得が一定額を超える場合に、夫において配偶者控除が適用されなくなる点を踏まえて導入されました。
また、配偶者も独立した納税者となるため、配偶者控除の要件から外れた場合に、世帯全体の税引後手取額がかえって減少してしまうという手取りの逆転現象に対応するために設けられました。
具体的には、年間所得(合計所得金額)が900 万円以下の居住者(納税者)が、生計を一にする合計所得が 48 万円超 95 万円未満である配偶者を有する場合、納税者に対して、最高 38 万円の所得控除を認める仕組み(配偶者控除)となっています。
一方で、配偶者特別控除は、妻の収入に応じて控除額が減少する消失控除となっています。そのため、2020年分以降は、およそ年間所得133万円(給与のみ収入の場合、額面約200万円)を超える水準になると、所得控除の金額がゼロとなる仕組みです。
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