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『アリバイ崩し承ります』大山誠一郎 感想・考察

テレビドラマ化もされた『アリバイ崩し承ります』、ドラマのイメージの方が強いのかもしれませんが、今回は原作について取り上げたいと思います。実はこの作品、ミステリー小説では驚くほどの高評価・受賞歴だったりします。

『アリバイ崩し承ります』大山誠一郎

どんな作品か


と様々な方面から非常に高い評価を受けた作品『アリバイ崩し承ります』。時計屋の店主である主人公が警察も頭を悩ます難事件を解決していく短編集となっています。時計屋が「アリバイ崩し」をするなど現実感のない設定でファンタジックな要素も少々入っていますが、各エピソードのトリックの重厚さは本物。ミステリー小説の中でもかなり綿密に組み立てられた本格派であることは間違いないでしょう。ミステリー好きならぜひ。

美谷時計店には「時計修理承ります」とともに「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。

難事件に頭を悩ませる新米刑事はアリバイ崩しをこの時計店に依頼することに。

ストーカーと化した元夫のアリバイ崩し、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ崩し・・・7つの事件や謎を、店主の美谷時乃はあざやかに解決していく!

何が面白いのか

1冊で7話を楽しめる短編集

本作品は7つの話を盛り込んだ短編集となっています。1冊の小説の中では、細かいトリックの数はあれど、基本メインのトリックが1つあるのみですが、本作品はそれが7つ。単純に色々な角度の違ったトリックを楽しめること間違いなしと言えます。

目を見張るトリックの数々

一番の驚きは7つのトリックそれぞれが目を見張るほどの重厚さを持っていることでしょうか。正直、登場人物や背景を厚くすれば、十分に長編小説として耐えうるレベルのトリックが次々と出てきます。はっきり言って自分でトリックを見破れれば、かなりの達成感を感じられるくらい工夫に富んだものとなっており、解決パートを読む前にじっくりと腰を据えて推理してみる読み方をお勧めします。

ちなみに、私はどれも当たらず解決編で「まさか!」というトーンで驚きながら納得していましたが笑。

テレビドラマ化もされ話題

さて、本作はテレビドラマ化もされており、そちらの映像作品を観てから原作を読んだ方も多いようです。私は原作のみしか読んでいないため、後日ドラマ版も見てみたいと考えています。やはり美谷時計店の中だけでアリバイ崩しをしてしまうと、映像的に寂しいものになってしまうため、もう少し動きのある脚本になっているのではないかと予想はしていますが、こういった映像化との差分を楽しめるのもこの本の特徴かと思います。

以下ネタバレ考察。必ず本を読んだ後にご覧ください。

【ネタバレあり】全体的な感想

7つの短編集で構成される本作品。短編と思いきやそのトリックの数々は重厚でよく考えられていましたね。どれも目を見張るトリックで大変面白く読ませていただきました。

私が読んだときはすでにテレビドラマ化がされており、そちらは未視聴なので後日どんな風に映像化されたのか見ておきたいと思ったのですが、小説内の雰囲気はファンタジー要素も入っていてすごく好感触でした。特に、美谷時計店が醸し出す、なぜか時計店でアリバイ崩しという展開は微笑ましく映るものがあり、続編も出ているのでシリーズとして色々な事件の解決を期待してしまいますね。

著者である大山誠一郎氏は2000年頃から活動されているようなのですが、短編が多いんですかね、『赤い博物館シリーズ』が『アリバイ崩し承りますシリーズ』のほかにあるようで、そちらもどういったものか気になります。そして、京都大学卒。京都大学卒のミステリー小説家と言えば、綾辻行人、貴志祐介、我孫子武丸、などなどおりますし、出身大学の影響もあるんでしょうか笑。

【ネタバレあり】伏線と考察

第一の事件:ハンバーグなのか、スイーツなのか

第一の事件は被害者の胃の内容物が昼に食べたハンバーグで、午後に食べたスイーツであることから犯人のアリバイが確保されていた事件となります。スイーツに見せかけたハンバーグを登場させることで、時間のトリックによりアリバイを崩すこととなったのですが、読者的にはどうだったのでしょうか。

私の中では、7つの事件のうち、これが最も納得しがたいかなと感じてしまいます。とはいえ、シナリオとしてどう直しても辻褄が合わなくなるのが目に見えており、例えばですが、わざわざ痛い思いして殺されるのを避けるために睡眠薬による自殺を選んでいたならば保険金が支払われなくなりますし、そもそもハンバーグに見せかけたスイーツではなく別のアリバイトリックがなかったのかと言うと、本エピソードの肝が消えるため、ストーリーとしては成立しない、ということなのかなと。

第二の事件:二丁の拳銃のトリック

第二の事件は、製薬会社の上司が反社会的組織と取引をしており、闇取引に気づいた部下を拳銃トリックで殺した事件ですね。このトリックはなかなか面白かったですね。短編ということであっさり事件解決してしまった印象がありますが、長編にも耐えうる物理トリックとして非常に面白かったです。

やはり短編だとどうしても登場人物が少ないということもあって、犯人はほぼ確定した状態でどうやって犯行を行ったのか、という視点のみで語られてしまうんですよね。もちろんそういう趣旨の物語として描かれているため、本作品としては全く問題ないのですが、ぜひ長編の中での殺人事件として読んでみたいなと感じるようなエピソードでした。

第三の事件:殺したと思っている本人は犯人ではなかった

第三の事件は、推理作家が元恋人を殺害したのだけれど、元恋人は実は死んでなく、そのまま帰宅。そしたら、大家に殺されてしまったという文章で書くと何ともおかしな展開のエピソードです。動機関連はやや強引な印象もありますが、とはいってもちゃんとトリックとしては成立していて、それを崩す過程なんかは「なるほど」と思ってしまいました。

やはりこの話も短編では惜しいくらいの騙し具合で、長編小説でも生かせる内容だと思いました。

第四の事件:姉を殺したのは妹か、マッサージ師か

ピアノ教師を殺害したのは誰か。その時間のアリバイがない妹の容疑を晴らす、今回のエピソード。私はプライベートで睡眠薬を使ったことがないので、どのくらいの効果があるのかわからないのですが、やはり20時間近くも一切の目覚めもなく、つまりは寝返りすらなく、眠り続けることは可能なのでしょうか。今回のケースでは、マッサージ代の下に睡眠薬で眠らせておいた妹を置いておいた、という話だったので本当にそんなことができるのか、とも疑問を抱いてしまいました。

ただ、もし車での移動や店舗などで身体を触っても反応しないレベルの昏睡状態を実現できるのであれば、本トリックは成立するため、このエピソードもひとつ目を見張るものがあったと言えます。とはいえ、そんな昏睡状態にさせる多量の睡眠薬だと逆に妹の身に危険が及ぶ可能性もあったんだろうなと勘繰ってしまいます・・・。

第五の事件:祖父の時間ずらしトリック

これは完全に日常系のトリックですね。現代の時間ずらしのトリックというのは本当に難しくて、というのも過去のミステリー小説の中で嫌と言うほどの時間ずらしトリックが多用されてきてしまったため、新しいトリックを見つけ出すのが大変難しい状況にあると言えます。例えばで挙げると、昔は許容されたかもしれませんが、今では完全に使い古されたトリックと見なされてしまいます。

  • 室内の時計の時間をすべてずらすトリック
  • 時計の進むスピードを変化させ時刻を早める・遅くするトリック
  • 日付が印字された写真は実は1年前のものであったトリック
  • 日付が印字された写真をさらに写真撮影することで、あたかも過去の写真であることを示すトリック
  • 左右を反転させた時計を用いることで別の時刻と誤認させるトリック

他にも色々ありますが、本作では斜めに立った状態で写真撮影をすることで、時間を1時間程度動かすというトリックでしたね。なかなかこれも面白かったと言えます。

第六の事件:時計台からの足跡は誰の者だったのか

雪山のとあるペンションで発生した殺人事件。時計台とペンションの間は雪で覆われており、そこに被害者と犯人の足跡が残されていました。その足跡を使ったトリックとなります。

本エピソードはトリックというよりも関係者の誤解から生じた謎に近く、意図せずに生じたトリックなんですよね。そのため、犯人・野本が被害者・黒岩の長靴に帰りは履き替えることで、トリックが発生したというのが経緯です。

足跡を使ったトリックはミステリー小説の中では頻出で色んな話がありますが、単純に履き替えのトリック自体は既出だったと思います。むしろトリックとするには、捜査の段階ですぐにバレそうな部類で、捜査かく乱にならない気もします。とはいえ、短編としては程よいミスリードも入っており、これくらいの重さのトリックはちょうど良く消化できるため、なかなか良かったなという読後感でした。

第七の事件:現代版時間差トリックに驚き

最後の事件はなかなかの工夫というか、新鮮なトリックで驚きました。物理的な時間操作の延長戦にあるのは確かなのですが、一日限定配信の音楽をアリバイに持ってくることで成立させる現代風なアレンジが効いていて良かったですね。

音楽配信だけでは本トリックは成立せず、犯行が発覚し犯人に辿り着くまでの時間経過も犯行計画に含まれていた観点が綿密さを高めていると感じます。知人の記憶の薄れ方も考慮した上で、犯行を行う狡猾さはなかなかでしたね。非常に面白かったです。


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