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『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 感想・考察

2019年に刊行された『medium 霊媒探偵城塚翡翠』。2022年10月からは日本テレビ系でテレビドラマ化もされます。原作を知っている身からすると、映像化はすごく期待が高まってしまいラストに向けてどういう演出をしていくのかワクワクしてしまうので今から楽しみなのですが、まずは名だたる賞を受賞した原作を取り上げたいと思います。

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼

どんな作品か

完全にハマった・ハメられた作品と評していいのでしょうか。こういうタイプの作品に出合ったのは初めてだったので、なかなかの衝撃でしたね。個人的な意見となりますが、最も衝撃を受けるためには少々ミステリー小説に慣れていないと味わえないのかな?と感じてしまう部分があり、もしかすると読後の感想が二分してしまうかもしれません。特に、あまり読み慣れていない方は伏線の意味するところをうまくキャッチできないかもとも思います。

とはいえ、本作品が獲得した賞の数(以下5つ)は目を見張るものがあり、未読の方にはぜひ読んでほしい一作です。

この作品は霊媒、つまりは死者を降臨させることができる城塚翡翠(じょうづかひすい)と推理作家・香月史郎(こうげつしろう)の二人の主人公が協力して事件を解決していく物語となっています。各事件が短編構成となっている一方で、物語全体を通じて連続殺人鬼が暗躍する展開になっており、霊媒によって犯人を暴きながら事件を解決していく一風変わった推理小説となります。

死者が視える霊媒士・城塚翡翠(じょうづかひすい)と、推理作家・香月史郎(こうげつしろう)。

心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。

証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。

だがその魔手は彼女へと迫り――。

何が面白いのか

霊媒を利用して事件を解決していく特殊設定

本作品の主人公・城塚翡翠は霊媒師であり、死者の魂を自身に乗り移すことができるようです。色々と制約条件はあるようで、万能というわけではないのですが、一般人には聞こえない死者の声を聴くことができるその体質によって、本作品は全く違う角度で話が展開していきます。通常の探偵役が手がかりを頼りに犯人を絞っていく、という展開ではないため、かなり特殊な設定の推理小説を体験できるのではないでしょうか。

犯人がわかった状態で証拠を見出す倒叙ミステリ

本作品の別の面白いところとして、倒叙ミステリであることが挙げられます。倒叙ミステリとは、探偵役が犯人をすぐに当てることができるのですが、どのようにして犯人を言い当てるに至ったのかを辿っていく流れ(または犯人が判明しているにもかかわらず真相がわからずそれを究明する流れ)のミステリを指しており、本作品はまさにその倒叙ミステリの醍醐味を存分に味わえる作品となっています。

やはり霊媒の力を使ってすぐに犯人がわかる、というのは事件解決が優先されるのであれば結論が早くて便利なのでしょうが、どのようにして犯人が犯行に至ったのか、どのようにして犯人を追い詰めていくのかは別物であり、そこまでの展開を楽しむこういった構成は通常とは異なる推理小説として楽しめるかと思います。

連続殺人鬼に追いつめられる主人公、そして最後は誰もが予想しなかったラストへ

本作品は城塚翡翠・香月史郎の二人が協力して解決する各事件が短編として収録されている一方で、物語全体を通じて連続殺人鬼が暗躍する展開が描かれています。この連続殺人鬼は、不幸にも次の標的を主人公・城塚翡翠に狙いを定め、彼女を追い詰めていきます。

物語のラストには非常に多くの予想しなかった事実が明らかになります。あまりにも意表を突く展開に数多くの読者は衝撃とともに混乱すらしたのではないでしょうか。これ以上を語ることはできませんが、ぜひその衝撃の結末は読んで確かめていただきたいと思います。

以下ネタバレ考察。必ず本を読んだ後にご覧ください。

【ネタバレあり】全体的な感想

もうね、完全にやられてしまいました。著者に完敗ですね、ここまで振り回されただけあって、逆に清々しさを感じます笑。

本作品は前半から中盤までは霊媒探偵と小説家が協力し合って事件を解決していく特殊設定ミステリだと、認識していました。途中から連続殺人鬼の行動が挟まれてくるため、この犯人が誰なのか推理していくのですが、中盤くらいまで読んだ段階で「あ、今回犯人わかっちゃったかも」と思いました。そして、終盤で明かされる連続殺人鬼の正体、満足感に一瞬だけ浸される私、「まぁ、受賞歴すごかったけど、こういう”犯人は主人公”的な作品だったのね~」と思った直後に明かされる「霊媒探偵は霊媒など使えない」という真実。このときの感情は「いや、そんなの絶対おかしいでしょ!!笑」という完全に犯人の驚愕した心境と一致しました笑。

すべて著者が撒いたエサであり、それにまんまと食いついてしまい本作の真の事実を見抜けなかった、というお話なのですが見事としか言いようがないですね。

元々、城塚翡翠のイメージは浜辺美波的なものを想像していたのですが、最後まで読むと沢尻エリカ的なものに変貌していました。次作も読みたいですね。大変面白かったです。

本作品が優れているのは倒叙のトリックだけでなく、その他の完成度という面でも素晴らしいと思いますね。読後の他の方の感想も色々と読んでいますが、本作品をイマイチと評価している方で的確な指摘をしている方がほぼ皆無、という点もそれを示していると思います。「犯人が予想通りで大したことなかった」と言っている人はもう少し本作品のヒントを理解した方がきっと良いでしょうね笑。

【ネタバレあり】伏線と考察

そもそも霊感ゼロの城塚翡翠。なぜ読者は気づけないのか

なんで気づけなかったんでしょうね笑。まぁ、かなり綿密な仕掛けがされていたため、やはり気づくのは難しいのですが、気づけるとすれば一番最初の翡翠と初めて会う場面ではないのでしょうか。

本作品は香月の視点(翡翠が霊媒師であることを信じている視点)で描かれているため、基本路線としてスピリチュアルな何かで翡翠は見えない事実を読み取っていった、と描写されてしまいます。一方で、香月が見てきた事実の数々は翡翠によって見せられてきた意図的な事実であるため、そういう仕掛けをした策士であることを疑ってかかれば気づけた方もきっといるのだと思います。

一方で、”翡翠が霊感ゼロの詐欺師であること”を信じ続けることが難しい場面が次々と本作では出てきます。例えば、以下のような場面は解決編で種明かしされたものもあれば、されていないものもあり、読者の心理をやはり特殊設定ミステリに誘導する仕掛けとなっています。

  • 初対面時に二人の職業を言い当てたシーン
  • ナンパしてきた男性達に過去の女性遍歴を看破するシーン
  • 第一の事件・被害者の倉持結花を自身に降臨させるシーン(もちろん翡翠は演技)
  • 水鏡荘で無意味に天井の隅を見つめるシーン(もちろん翡翠には何もわからないがわかるフリをする演技)
  • 第三の事件現場でベンチに寝転がって死者の魂を感じ取ろうとするシーン(もちろん翡翠は演技)
  • 第三の事件で藁科琴音が吉原さくらを殺害しようとした現場を的中させたシーン

これらすべてが伏線として最後の解決編につながることを考えると、やられたとしか言いようがありませんね笑。

連続殺人鬼の正体を推理し始めてしまったら最後。それは著者の罠だった・・・

ミステリー小説を手に取る読者の心理は、大概にして、「手に取った本にはどんな衝撃のトリックを隠しているのだろう」だとか、「仕掛けたトリック・犯人を解決編前で暴いてやろう」という意気込みで読む方がほとんどだと思います。

そして、物語中盤前半あたりから登場する謎の人物・鶴岡文樹(つるおかふみき)による連続殺人。その正体は誰なのか、どう物語に関わってくるのかと想像を巡らし、この人物は実は〇〇なんじゃないか・・・と読者は推理をすることになります。しかしこれが完全に著者の罠だったんですよね。眼くらましというか、エサというか、なんというか笑。

物語全体を通じて、確かに鶴岡文樹の正体が誰なのかを推理したくなるように物語は構成されています。そして、著者も程よい加減で当該人物が誰なのか誘導しており、それに食いついて満足してしまう仕掛けとなっている絶妙なバランスが本作品にはあり、最後の最後まで「城塚翡翠の正体」に勘づかれないようにカモフラージュさせられてしまいます

最後まで読んだからわかるこの本の凄さ。本当「すべてが伏線」と言われるだけあります。

城塚翡翠の本性

さて、物語の序盤から中盤で描かれる、か弱く非力でミステリアスな女性・城塚翡翠ですが、終盤ではその態度を一変させ頭脳明晰・狡猾な女詐欺師の姿を香月に披露します。彼女が語る事件の真の姿、一目で犯人を当てた推理、香月に解決させるための誘導術を語っていきます。その姿はまさに女帝感溢れ、前半で見せた非力な女性像を抱くことはできません。

物語本編は香月の逮捕後のエピローグが描かれており、その中ではなかなか興味深い描写がされています。彼女は香月の前では威勢よく煌びやかな人生を歩んできたかのような口ぶりでしたが、実際は引きこもりがちで友人も少なく、ぼさぼさ頭で不摂生な隠居生活をしばらくの間、休息期間として過ごしていたようです。この姿を見る限り、序盤で見せたミステリアスで非力でか弱い少女というわけではなく、一方で狡猾で強気な女性詐欺師のような強面の女性というわけでもないようです。むしろ人間味溢れる人物のようで、外では役者のように猫をかぶって生活している極々普通の(とはいえ頭脳明晰の)女性という人物像になんだか最後はほっこりしました。



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