出生数や出生率について調べていると必ず出てくる「ひのえうま(丙午)」という単語。皆さんはご存じでしょうか。あまり聞きなれない単語なのですが、この”ひのえうま”はある1年のことを指す言葉であり、この年には不思議な現象が起きたことが知られています。今回は、今ではあまり知られなくなった”ひのえうま”について紹介したいと思います。
目次
”ひのえうま”の年に何が起きたのか?
”ひのえうま”とは「ある年」のことを指しており、60年に1度該当する周期的なものとなっています。直近では1966年が”ひのえうま”の年に該当しました。この年には、前後の年と比較して、出生数が非常に大きく落ち込むという現象があったことが知られています。
以下の数字を見ていただければわかるかと思いますが、前後の年と比較して極端に出生数が減少したことが確認されています。
- 1965年の出生数:182万人
- 1966年(ひのえうま)の出生数:136万人
- 1967年の出生数:194万人
”ひのえうま(丙午)”ってそもそも何?
”ひのえうま”がどういう意味かは漢字を読めばわかる人も少なからずいるのではないでしょうか。というのも、”ひのえうま”とは干支の組み合わせの43番目を指しているからです。
”干支は12個じゃないの?”と思う方もいるかもしれませんが、陰陽五行では十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)の組み合わせとなるため、全部で60通りとなることが知られています。
十干(じっかん)は陰陽と五行の組み合わせ
十干(じっかん)には、以下のように陰陽と五行(木、火、土、水、金)が振り分けられています。
- 甲(こう)・・・木/陽
- 乙(おつ)・・・木/陰
- 丙(へい)・・・火/陽
- 丁(てい)・・・火/陰
- 戊(ぼ)・・・土/陽
- 己(き)・・・土/陰
- 庚(こう)・・・水/陽
- 辛(しん)・・・水/陰
- 壬(じん)・・・金/陽
- 癸(き)・・・金/陰
の10からなりたちます。”ひのえうま”の丙(へい)が火/陽であることがわかりますね。
十二支(じゅうにし)の陰陽五行
十二支(じゅうにし)は、比較的馴染み深いものであるため、わかる方は多いでしょう。こちらにも陰陽五行が割り当てられています。
- 子(ね)・・・水/陽
- 丑(うし)・・・土/陰
- 寅(とら)・・・木/陽
- 卯(う)・・・木/陰
- 辰(たつ)・・・土/陽
- 巳(み)・・・火/陰
- 午(うま)・・・火/陽
- 未(ひつじ)・・・土/陰
- 申(さる)・・・金/陽
- 酉(とり)・・・金/陰
- 戌(いぬ)・・・土/陽
- 亥(い)・・・水/陰
となっています。こちらも”ひのえうま”のひとつである午(うま)が火/陽であることがわかりますね。
”ひのえうま”の年になぜ出生数は減ったの?
十干(じっかん)でも干支(えと)でも、陽の火に該当する丙(へい)と午(うま)の年度は、60年度に1度訪れることとなります。直近の”ひのえうま”は1966年。陽の火が重なるこの年度に生まれた女性は気性が激しすぎて夫を不幸にする、と言われており(これは迷信と言われていますが)、これがそもそもの出生数の減少の要因となったようです。
具体的にどの程度減少したのか。上の図をご覧ください。
これを見るとわかるかと思いますが、丙午に該当する1906年と1966年に大きく出生数が減少しているのがわかります。1906年については、わずかほどではありますが、割合にして約4%減少しているとのこと。また、1966年については25%減少しており、昭和においても迷信が根強く残っていたことがわかります。
実は、現在の出生率は”ひのえうま”の年より低い
やや話は脱線しますが、合計特殊出生率(1人の女性が生涯で子供を産む人数)の推移を見ると、現在の水準が驚くほど低いことがわかります。
1975年に出生率は2.0を下回る
第1次ベビーブーム期には、この合計特殊出生率は4.3を超えていましたが、1950(昭和25年)年以降は急激に低下していきました。その後、第2次ベビーブーム期を含め、合計特殊出生率はほぼ2.1台で推移していましたが、1975年に2.0を下回ってから再び低下傾向となりました。
1989年に”ひのえうま”の年より低い出生率を記録する
1989(平成元年)年にはそれまで最低であった1966(昭和41)年の”ひのえうま”の年の数値を下回る1.57を記録し、さらに2005(平成17)年には過去最低である1.26まで落ち込んでしまったことがグラフからわかります。
”ひのえうま”の年には乳児死亡率が増加した
ややマニアックな話題なのですが、”ひのえうま”の年に出生数が減少したのと同時に、乳児死亡率が増加しているという統計値もあります。グラフにすると奇妙なことに”ひのえうま”の年度だけ前後とは異なる動きを示していることがわかります。
実は、一部の有識者の間では過去の”ひのえうま”の年において乳児死亡率が増加したという意見もある模様。以下、「丙午世代のその後-統計からわかること(赤林英夫)」より引用した文章を掲載します。
最近, Rohlfs, Reed, and Yamada (2006)は, 1966 年や1906 年に比べ, 1846 年には, 女の子の乳幼児死亡率が上昇していることを示唆している。Rohlfs らは, このことは, 丙午生まれの女子に対する家庭内資源が, 他の世代(兄弟姉妹)に意図的に振り向けられた証拠ではないかと推測する。
丙午世代のその後-統計からわかること(赤林英夫)
単純に統計上の率だけで乳児死亡率が増加したとは言えない
ちなみに、このグラフの推移をもって乳児死亡率が増加したと述べるのは、やや早計であると私も思っています。それは、統計上の乳児死亡率については、一般に「(ある年の乳児死亡数)/(その年の出生数)」として定義されるためであり、乳児死亡数とカウントされる母集団は、前年の乳児の死亡としてカウントされることになります。これはすなわち異なる母集団で見かけ上の死亡率を算出されているということになるためですね。
また、”ひのえうま”により出生数が減少したため、その翌年度には乳児死亡率が逆方向の動きを示しています。このことからも優位な影響があったと言うのは難しいかと思います。
実は受胎調節や届出操作の可能性が濃厚?
あまり確固たる論拠があるわけではないため、はっきりしたことを述べるのが難しいのですが、当時の人々が、受胎調節や届出操作等により丙午を嫌ったという経緯もあるため、統計上もあまり信頼できる数値ではないと言えるでしょう。
次の”ひのえうま”はいつ?
直近の”ひのえうま”の年度は1966年であることから、60年後に該当する次回の”ひのえうま”は2026年となります。
なお、1966年の状況と2026年の状況を比較すると大きく異なるため、同じように”ひのえうま”の減少が起きるとは考えづらいでしょう。そもそも”ひのえうま”という現象を知っている人が今ではかなり少ないということや、十干と干支の組み合わせで出生のタイミングを調整したいと考える人は、1966年と比較すると、だいぶ少ないことが予想されます。
ちなみに”ひのえうま”を英語で言うと・・・
”ひのえうま”というのは日本独特の減少です。あまり海外の人から尋ねられることはほとんどありませんが、”ひのえうま”をどのように英語で表現するのか、を調べてみると、Weblioではこのような説明がされていました。
43rd year of the sexagenary cycle (year of the Fire Horse、renowned for disasters and the birth of women destined to kill their husbands)
weblio
”Sexagenary cylce”とは”干支(えと)”という意味であるため、”干支の43番目”という説明をしています。”Destined to kill their husbands”とは直訳すると”旦那を殺す予定”という意味であるため、日本語の迷信の英訳にほぼ近いと言えます。
ちなみに他の方の個人ブログで恐縮ですが、こういった説明もありました。
The Hinoeuma year of Chinese astrology comes once every 60 years.
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In Japan, women born in the Hinoeuma year are believed to be headstrong and deadly to men.
”Chinese astrology”とは、直訳では”中国の占星術”となりますが、いわゆる和訳すると”干支”という意味で解されます。こちらは”headstrong and deadly”とニュアンスはかなり弱まった表現となっています。もちろんWeblioの説明と意味するところは同じであり、どちらも”ひのえうま”の説明としては十分ではないでしょうか。
まとめ:”干支の43番目”&”女性は気性が荒くなるという迷信”
日本はいまや人口減少社会となっていますので、そこまで驚くことではありませんが、これだけ一時的に出生数が減少すると、日本の並列社会においてどのような影響が起きたのだろうかと軽く考えてしまいます。
とはいえ、”ひのえうま”に関して言えば、あくまで”ひのえうま”は干支の43番目。その年に生まれた女性は気性が荒い(という迷信)だけ覚えておけば十分でしょう。
進学、就職、社内における出世競争など人数が少なければ少ないほど有利になる状況ですが、次回の2026年にも人口減少となる現象が起きることはまずないのではないか、と私個人は考えています。将来のことはわかりませんけども。人口問題については専門分野ではありませんが、また面白い話題を見つければ記事にしようと思います。以上、ご参考まで。
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