日本の年金制度シリーズ① ~中小企業退職金共済制度~

今回よりシリーズものとして「日本の年金制度シリーズ」を立ち上げたいと思う。他にもシリーズものとして執筆したいテーマがあるが、まずベーシックな話を記載しないことには後続の話がかなり書きづらいという体もあり、このテーマを選択した。第何回までいくかはわからないが、年金制度というテーマはおそらく10回未満で区切りがつくのではないだろうか。

第1回目は「中小企業退職金共済制度」(以下、中退共)である(なぜ国民年金、厚生年金が第1回目でないのかと疑問に思う方もいるかと思うが、それは諸事情がありご容赦いただきたい)。

中小企業退職金共済制度とは

さて、中退共とは中小企業向けに設けられた社外積立の退職金制度である。昭和34年に中小企業退職金共済法が制定され、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営を行っている。

独立行政法人勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部

そもそも中小企業が単独で退職金制度を持つことは、難しい実状がある。例えば、制度運営維持費の問題大企業と比較して安定的に資金繰りを行う難しさがあるため、自社で退職金制度を持つことの敷居が高くなっている。

仮に、退職金制度を有しているとしても、退職慰労金制度といった金額が明確に規程されていない、いわば会社側に都合のいい取扱いになる制度のみである場合も多い。

そのため、この中退共は「中小企業者の相互共済と国の援助で退職金制度を確立し、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と、中小企業の振興に寄与すること」を目的として、中小企業の退職金制度導入を支援している。

言い換えると、国がサポートするから、安全・確実・有利に退職金制度を中小企業もぜひ作りましょう、ということだ。

ではどの辺が安全・確実・有利なのか。制度の特徴を見ていこう。

中退共の規模

平成28年1月現在では、加入している企業は362,181社、加入者の数は3,322千人となっている。厚生労働省が公表している平成27年3月のデータでは民間サラリーマンが35,990千人であるのに対し、同じ企業年金である確定給付企業年金が7,820千人、確定拠出年金(企業型)が5,050千人であることからも、他の企業年金に引けを取らない規模となっている。

なお、中退共に加入できる企業は限定されており、業種により以下のような制約がある点が特徴だ。主に従業員数が一定人数以下であることや資本金要件が課せられる。

  • 一般業種(製造・建設業等):常用従業員300人以下または資本金・出資金3億円以下
  • 卸売業:常用従業員100人以下または資本金・出資金3億円以下
  • サービス業:常用従業員100人以下または資本金・出資金5千万円以下
  • 小売業:常用従業員50人以下または資本金・出資金5千万円以下

上記のような制約から企業規模別に加入者数の割合を見ていくとそのほとんどが100人以下の従業員で構成される企業であることがわかる。
20160403年金01.png
(出所:独立行政法人勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部HPより筆者作成)

掛金への補助制度

中退共の掛金は、被共済者ごとに複数の金額から選択をすることが可能だ。5千円~10千円までが千円刻み、12千円~30千円までが2千円刻みで設定ができる。

なお、短時間労働者については2千円から4千円の掛金額を設定することが可能。掛金の設定方法は、「賃金の○%」を基準とする方法や「勤続年数」を基準とする方法、「役職」を基準とする方法、「一律定額」とする方法など各企業それぞれで決定できる。

事業主が拠出する掛金に対して助成制度があり、以下のような補助がされる。

新規加入助成

初めて中退共に加入する事業主に対して、掛金の1/2※を加入後4ヶ月目から1年間補助してくれる。

※4,000円を上限とする
※掛金月額が4,000円以下の短時間労働者の場合、掛金月額の1/2に掛金月額に応じて300~500円が上乗せ

月額変更助成

掛金月額を増額変更する企業に対して、掛金増額分の1/3を増額月から1年間補助してくれる。(この場合、増額前掛金が18,000円以下の場合のみ)

上記のほかにも、自治体により独自の助成制度を設けていることがある。

中退共の給付設計

中退共の給付は非常にシンプルなものとなっている。退職金は、

退職金額 = 基本退職金+ 付加退職金

の2本建てとなっており、それぞれの内容は以下のようなものとなっている。

基本退職金

基本退職金は、掛金月額と納付月数に応じて決定する。予定運用利回りは法令により1.0%(平成14年11月より)と定められている。掛金月額と納付月数がわかれば、具体的にいくら基本退職金がもらえるか一覧表になっており、中退共のホームページやパンフレットで簡単に確認することができる。

付加退職金

付加退職金は、運用利回りが予定利回りを上回った場合に基本退職金に上積みされるもので、運用収入の状況に応じて定められる。具体的には、掛金納付月数の43ヶ月目とその後12ヶ月ごとの基本退職金相当額に、厚生労働大臣が定めるその年度の支給率(平成27年度は0.0216)を乗じて得た額を、退職時まで累計した金額となっている。



中退共の給付の受け取り方

退職金額は事業主掛金を12ヶ月以上納付している従業員が退職した際に支給される。一時払いのほか、一定の要件を満たせば分割払い、または一時金払いと分割払いの併用も可能だ。

<退職金の受け取り方法>
一時払い:退職時に全額一時金として支給
分割払い:退職後5年間または10年間にわたって年4回(2・5・8・11月)支給される
一時金払いと分割払いの併用

なお、分割払いの条件として退職金額が一定以上であることが定められており、例えば5年間の全額分割払いを希望する場合には80万円以上の退職金額となっている必要がある。

税制上の優遇

掛金は、全額損金または必要経費として計上できる。退職金の受け取りの際には、一時金払いだと退職所得、分割払いだと雑所得(公的年金等控除の対象)となる。

なお、退職金が遺族に支払われる場合は相続税の対象となる(法定相続人数×500万円までが非課税となる)。ただし、事業主が中退共を解約した場合に従業員に分配される給付金は一時所得として課税される。

中小企業の退職金水準は大企業のものと比較して水準が低い傾向にあるため、一時金として受け取ると、全額退職所得控除されるケースが多い。

ちなみに、東京都産業労働局の調査によると、大卒入社で定年まで勤めた場合であっても、一般的な退職金額は1,400万円程度となっており、一時金で受け取った場合には全額非課税となる水準だ。やはり、あえて分割で受け取る必要もないのだろう。

中退共の資産運用方法

さて、ここからは事業主が拠出した掛金がどのように運用されているかを紹介する。

中退共の給付は法令で定められている運用利回り1.0%を加算して支払う仕組みである以上、資産運用としても1.0%以上のリターンが求められてくる。

しかし、1.0%という利回りはかなり低い水準に抑えられていることもあり、中退共の資産の7割以上を国債で運用する安定したポートフォリオとなっている。

以下に、中退共の資産運用構成割合を示す。
20160403年金02.png
(出典:独立行政法人勤労者退職金共済機構「平成26年度資産運用状況について」)

中退共の運用資産額の推移

安定的なポートフォリオの恩恵もあってか、資産額はここ10年間で1.5倍にまで拡大した。

もちろんこの間には、ITバブル崩壊後の日本経済低迷期やリーマンショックなどがあったのだが、多少上下しつつも堅調に資産額を伸ばしている点は見事と言えるだろう。

以下は、過去10年間の資産額の推移と運用利回りの図である。
20160403年金03.png
(出典:独立行政法人勤労者退職金共済機構「中小企業退職金共済事業年次統計表」より)

累積欠損金の解消

中退共の資産運用は常に順風満帆であったわけではない。

平成3年に488億円あった剰余金は平成5年以降ずっとマイナスのままであった(当時はまだ予定利率が6.60%※であった)。そして、アベノミクス等の恩恵もあり、20年の月日を経て、ようやくプラスにまで辿り着いたのである。

※その後、法改正により過年度含めて5.50%へ修正された

運用が好調で、剰余金が発生した場合には、その一部を付加退職金に充てることとしている。具体的には、その年度の剰余金のうち年間の積立目標額である600億円までが積み立ての原資となり、600億円を超える部分が付加退職金となる。

ただし、その年度の剰余金が目標額の2倍(1,200億円)を超えた分は、付加退職金と内部での積み立て用とで折半することとなっている。
20160403年金04.png

付加退職金は平成28年度支給できず

運用利回りは平成24~26年度まで6%台後半を記録し、平成24年度で2,000億円台、平成25年度と平成26年度は1,600億円台の収益を得た。

この結果、平成23年度には1,700億円あった累積不足金が解消し、平成26年度末までに約3,800億円の剰余金が積み上がった。そのため、平成26年度では8年ぶりに付加退職金が支給され、翌年度の平成27年度についても付加退職金が支給された。

しかし、平成27年度は年明け以降の運用環境の悪化により多額の損失が生じる見込みであり、付加退職金を支給できる状況ではなく見送ることとされた。

厚生労働省は、付加退職金支給のルール見直しを進めていたが、今回の剰余金の減少により現行ルールが維持されることとなった。

第63回労働政策審議会勤労者生活分科会中小企業退職金共済部会 

他制度との納付実績通算制度

制度加入前の勤務期間の通算、加入企業間の転籍等による掛金の納付実績の通算が可能となっている。

  • 過去勤務期間の通算:企業が新規加入する際、1年以上勤務している従業員全員について、通常の掛金とは別に過去勤務掛金を納付することにより、10年を限度として加入前の過去勤務期間の通算が可能。
  • 転籍等による通算(一定の要件あり):中退共制度と中退共制度、特定業種退職金共済制度または特定退職金共済制度との間の転籍については、過去期間を通算することができる。なお、小規模企業共済制度とは通算できない。

他制度への資産移換

加入企業が中小企業に該当しなくなった場合、解約手当金に相当する額を確定給付企業年金または特定退職年金共済に移換できる。平成28年4月1日より確定拠出年金(企業型)への資産移換も可能になった。

まとめ

中退共には、加入条件や予定運用利回りが低いことやポータビリティが欠点として指摘されることが多い。

ただ、少なくともポータビリティについては、昨今の法改正により選択肢が大きく増えていることは確かであり、財務状況についても付加退職金を支給できないにせよ、欠損金は解消している制度である。

中小零細企業にとっては、国からの補助がありなおかつ安心・確実・有利な中退共はやはり魅力的な制度と言えるのではないだろうか。

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