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世界の年金ランキング。日本の順位は…

日本の年金制度は既に破綻しているとメディアではあちこちで言われているが、世界各国の年金制度と比較した場合には日本の年金制度はどう映るのだろうか。今回は、年金識者達のコラム以外でもYahooニュースなどの一般のニュースサイトで取り上げられるぐらい有名になったマーサー社が公表している「グローバル年金指数ランキング(2015年度) 」を紹介したい。

なお、本記事は2017年度の同レポートをもとに一部改筆をした。

どういうランキングなの?

この「グローバル年金指数ランキング」は、世界各国の年金制度を横断的に比較し、その優れた点や設計上の問題点など多角的に分析調査したレポートとなっており、毎年このランキングは人事・年金・資産運用コンサルティング等を主ビジネスとするマーサー社より公表されている。

2009年からこのランキングは作成されており、2017年で9年目となる。当初は11カ国のみであったが、2017年では30カ国までその範囲を広げてきた。これまでの傾向からすると、今後もおそらく対象国は拡大する方向性だろう。対象国の地域人口から換算すると、全世界人口の60%以上をカバーするほど巨大な規模となっており、様々な文献や発表等で参照される世界的に注目される重要な指標のひとつとなっている。

公的年金・私的年金その他社会保障を合わせた全てが評価対象

年金制度の調査比較対象は、公的年金のみならず私的年金(企業が実施している企業年金制度)や個人貯蓄も含んでおり、その国の老後に係る社会保障全般が対象となっている。

海外と言っても千差万別ではあるが、一般的にいって公的年金(Social Securityとして社会福祉が機能する場合もある)と私的年金の組み合わせで成り立っていることが多い。それとは別に個人の貯蓄をもって老後の年金原資となってくる。

ただ、そうはいっても各国の制度の成り立ちがあるため、現在の断面的な年金制度だけで判断することはできない。また、税制などの他の制度との関係性を考慮しなければ、年金制度単独で評価することも適切とは言えない。

そのため、このグローバル年金指数ランキングでは、

を大項目として、制度や国全体の細かい状況を含めて評価している。

具体的な評価基準は?

具体的な評価基準は

に大別される項目をもとに40以上の質問項目で評価指数を算出している。長寿リスク、高齢者の人口割合増加、長寿化による貯蓄額の不足など、現在多くの退職者が直面しているリスクを基準として含んでおり、それに対して各国政府がどのように適切かつ持続可能な給付の提供をし得るか、このランキングを通じて述べている。

それぞれの大項目の割合は「十分性」が40%、「持続可能性」が35%、「健全性」が25%とした合計100%となっており、各項目においてもその重要度に応じて影響が異なる評価体系だ。

では、大項目のそれぞれについてどのような要素があるか確認してみよう。





十分性(Adequacy)

レポートの中では、「十分性」の定義について明確な記載は見つからなかったものの、主に以下のような視点による評価がされている。

給付水準

最低年金額の水準はどの程度か、実質価値を保つためにどのような調整を行っているか、など公的年金が老後の生活に十分なだけ支払われているか、といった点に焦点が当てられている。

貯蓄額

老後のための貯蓄額、貯蓄率は十分になされているか。公的年金の年金給付で不足する部分については、貯蓄から取り崩すことが想定されるため、明確な目標水準がある訳ではないものの、高いことが望ましい。

税制優遇

個人年金に対して税制優遇がされるか。補助的な役割として導入される個人年金について、各加入者によりインセンティブが働くような仕組みが導入されているかがポイントとなる。

給付設計

離転職時に給付水準を維持することができるか、離婚分割における年金額は適切に配分されるかなどの制度上の公平性を保つ仕組みが存在しているか、などがポイントとなる。

資産運用

長期的に資産運用によるリターンを得ることができているか。(保険料を積立て給付原資とする)積立方式の場合には、安定的な運用収益により財政状況をコントロールすることが必須となる。

上記の項目から見るに、世界的に見ても最低年金額の水準、税制優遇によるサポート、制度運営における柔軟性などが公的年金において求められていることがわかる。

持続性(Sustainability)

持続性についても明確な定義は見つけられなかったが、主に以下のような視点での評価となっている。

私的年金の普及率

各国の年金制度のうち私的年金(企業年金、個人年金)が果たす役割が大きい場合も多く、労働者がどの程度私的年金に参加しているか

年金資産の積立水準

将来の年金給付をまかなうための現在の年金資産がどの程度積み立てられているか。相対的な比較のために、各国GDP比でどの程度積立られているか

平均寿命と支給開始年齢の関係

平均寿命と支給開始年齢にどの程度の差があるか。将来的(調査では20年後)にどの程度その差が変動しているか。また、将来的に高齢化比率はどうなっていくか。

高齢者の労働参加率

高齢者の労働参加率はどの程度か。

政府債務

各国のGDP比における政府債務はどの程度か(国家破綻リスクや将来的な給付減額のリスクがあるか)

上記のような項目は直感的に制度が今後も存続できるか、という点に結びつくことは容易に想像がつくだろう。世界的な傾向から見ても、年金制度を持続させるには、引退年齢を高くし、現役時代にできる限り老後資産を蓄えるというのが共通認識だ。国が存続していることは、当然の条件であることは言うまでもない。

健全性(Integrity)

健全性も十分性、持続性同様に定義は見つけられていないが、主に私的年金制度の運営・透明性等に関する視点での評価となっている。

規制、ガバナンス(統制)

年金制度が適切に運営されているか(毎年度の報告義務、法的規制や年金制度自体が事業主と法的に分離されていること等)、資産運用に関するガバナンスが機能するものとなっているか(運用方針、リスクマネジメントのコントロール等)

給付資産の保護、コミュニケーション

確定給付型の年金制度では最低積立要件が課せられているか、積立不足発生時の追加拠出の期間はどの程度か。確定拠出型の年金では必要資産が加入者口座に割り当てられているか。自家運用の規制はあるか。また、新規加入者への年金制度の説明が行われるか、加入者が年間レポートを定期的に受け取れるか。

コスト

年金制度のランニングコストがどの程度なのか。スケールメリットによるコスト低減がどの程度機能しているか。

これらの項目は主に私的年金制度の評価に関わってくる。世界的に私的年金の役割というものは非常に大きく、私的年金が健全にかつ効率的に運営されることが公的年金をサポートする上で不可欠な要素といえる。





トップはデンマーク、最下位はアルゼンチン

ここからは世界的なランキングの状況を見ていこう。国家自体の経済状況もあり、短絡的に比較すべきではないが、日本の年金制度の改善点を考える上で十分な参考となるだろう。このランキングでは、各国の年金制度を前述した基準で評価し、AからEまでの5段階でランク付けをしている。以下がそのランク付けとなる。

2017年のランキング

2015年のランキング

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(出所:Mercer Melbourne Global Pension Indexより筆者作成)

ランクAは該当国なし

2017年ではランクAの該当国はなし。そうは言っても、ランキング首位はデンマークとなっており、2012年より首位の座を保っている。デンマークと共にオーストラリア、オランダは5年連続トップ3の順位を維持している。

デンマークと聞くと、高い税金と物価を筆者は真っ先にイメージしてしまう。若者失業率も高く、デンマーク人は貯蓄をしない人が多いと言われている。なにせ自分の知人からの話では、日本円にして50万以下の貯蓄額である人々が大半を占めているのだとか。

それはさておき、そんな印象のデンマークだが、年金制度については堅固な設計と運営を保っている。デンマークの詳細な年金制度の仕組みについては別途記事にしたいが、以下のような点がポイントであると考えられる。

・被用者、自営業者含めた全国民対象の手厚い公的年金の存在(全額税方式)
・厳格なリスク管理を基に積み立て方式で運営する被用者向けの労働市場付加年金(ATP)の存在
・公的年金の上乗せとして、被用者の90%をカバーする職域年金の存在

デンマークの公的年金における支給開始年齢は現在65歳とされており、高齢化の進展に伴い2024年から2027年にかけて67歳まで支給開始年齢を引き上げることが決定されている。また、2027年以後は平均余命の伸びに応じて支給開始年齢を連動させる仕組みを導入するなど、年金制度の持続性を保つ仕組みがすでに導入されている。そのため、デンマークは3つの指標の中でも持続性という観点で、一際優れたスコアを出している。

最下位はアルゼンチン

アルゼンチンは2016年に調査対象国として含まれたものの、2016・2017年は最下層ランクに位置付けられている。レポート内で詳細は述べられている箇所を発見できなかったが、アルゼンチンは極めて不安定な経済を送ってきた国のひとつであることはご存じの方も多いだろう。

ハイパーインフレ、治安悪化、預金封鎖、人口流出など経済の教科書に出てくる極めて最悪な状況が過去発生しており、デフォルトを経験している国のひとつだ。

年金制度においても賦課方式から積立方式への転換を図り、なおかつ民営化を試みたものの、財政の更なる悪化をもたらし、現在は賦課方式かつ国有化されている。

日本の状況

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では、ここからは日本の状況について見ていこう。

日本は30ヵ国中29位(2017年)

日本の年金制度は、30ヵ国中29位とシャレも通じない結果となっている。評価は5段階中下から2番目の「D」。各個別の指数についてみても、十分性「D」、持続性「E」、健全性「C+」となっており、学生であれば留年確定レベルだ。

持続性については最低評価である「E」に位置しているが、他国ではアルゼンチン、ブラジル、イタリア、オーストリアが同様に持続性の評価で「E」の位置にいる。国ごとに持続性が危ぶまれる要因が異なることは言うまでもないが、極めて問題視される状況であることは確実だろう。

レポート内で日本の年金制度については、「年金制度そのものの安定性は見られる」とコメントされているものの、高齢化社会を巡る課題に対する取り組みなど根本的な改善が求められている。

具体的にどのような点が問題なのだろうか。要所となるポイントを見ていこう。





日本の年金制度の問題点

日本の年金制度の給付額の低さ(所得代替率の低さ)

日本の中ではたびたび問題視されることもある年金額の低さが挙げられる。

一般的に、国同士の年金額の水準を測る物差しとしては、「所得代替率」を基準に考えることとなる。「所得代替率」とは、現役世代の年収と年金給付額の比率のことを指しており、引退後に現役時代のどれくらいの収入を受け取れるのかの目安になってくる。

日本の公的年金の所得代替率は現在60%を超える水準にあるが、将来的にはマクロ経済スライドにより調整が行われ、50%程度まで下がることが厚生労働省の財政検証でも示されている。具体的な年金額についてはこちらの記事を参照されたし。

老後に年金はいったいいくらもらえるのか ~具体的な年金額~

また、厚生年金保険に加入できない第1号被保険者(自営業者等)は所得代替率はさらに低くなることは確実であり、明らかに老後の年金給付の水準が低いことが指摘されている。

なお、OECDが公表している所得代替率は一定の前提を置いて算定している点には注意が必要だ。

上記のような点があるため、OECDの統計では日本の所得代替率が約37%という低い水準となっている。

日本は年金支給期間が長い

もう一つの問題として挙げられるのが、年金支給期間の長さである。

日本の平均寿命は世界で最も長く男性で81年、女性86年となっており、公的年金の支給開始年齢が65歳であることから、平均で考えても男性は16年間、女性は21年間の給付を受け取ることができる。

世界的に見ると、日本よりも平均寿命が短いにも関わらず、支給開始年齢を高く設定している国も存在し、持続可能な年金制度となるためには必要な対応を早急に実施することが求められる。なお、日本でも支給開始年齢を70歳以上から受け取る選択肢を設けるべきかどうか議題として出されたが先送りされたという経緯もあるため、今後の状況によっては支給開始年齢の選択肢は大きく変化するかもしれない。

高い水準にある政府債務

高い水準にある政府債務についても日本の大きな問題と言える。

日本の政府債務はGDP比で246%となっており、世界でもダントツの1位なのは有名な話だ。先日、実質的なデフォルトに陥ったギリシャでさえ178%なので、見た目だけで考えれば債務超過で国家が破綻していてもおかしくはない数値のように見える。

最近はいろいろなところで報道されるようになったこともあり、日本の政府債務が高いと言ってもその借金(国債)の大半を国内の機関投資家および個人投資家が保有しているため、問題ないという事実が広まってきた。だが、本当にそれだけでよいのだろうか。

日本の借金そのものが日本の資産という考え方をする場合、国家財政は民間財政と強く相関する関係になるため、民間経済が破綻したときこそ日本のデフォルトとなるのではないだろうか。この日本の借金問題は話し出したら、いくら時間があっても足りないのは明白なので簡潔に済ませておくが、今後の対外的な課題として残ってしまうと言わざるを得ないだろう。

海外を見ると、シンガポールのように政府債務がマイナス(基金に資産を積立済)となっているような国もあり、日本においてもその健全性を唱えるならば、参考する価値はあるように思える。





日本の年金制度の改善策は何か

では、日本の年金制度はどのような改善策を講じればよいか。これまでの問題点を踏まえると、以下のような改善策が有効であるとレポート内では述べられている。

・家計貯蓄額の増加
・年金給付額の引き上げに伴う、所得代替率の改善
・企業が実施している任意の退職給付制度の一部を、強制的に老後の年金給付とする制度の導入
・平均余命の伸びに伴う公的年金制度の支給開始年齢のさらなる引き上げ
・高齢者の就労機会の延長
・企業年金、個人年金のさらなる拡充

皮肉な話にはなるが、これまで日本がすでに実施してきた高年齢者雇用安定法や平成6年および平成12年法改正での公的年金の支給開始年齢の引上げなど、同様の施策をさらに実施することが改善策と述べられている。

ただ、このレポートでは無視されているが、日本の公的年金では平成16年改正において給付水準の自動調整を行うマクロ経済スライドを導入している。実際の発動までに特例水準の解消等の長い年月を要してしまったが、やっと現在マクロ経済スライドが発動できる環境下となってきた。

また、詳細は割愛するが、マクロ経済スライドをより早期に終了させるための、キャリーオーバー方式の採用(平成30年度)、マイナス成長時における賃金物価スライド(平成33年度)も将来的に施行予定となっている点についても残念ながら本レポートでは織り込まれていない。

一方で、すでにiDeCoという愛称で知名度は着実に拡大しているが、個人型DCの普及は日に日に進んでいる。このランキングについても、日本の年金制度改革が反映されることでその評価が高まることが期待される(2018年レポートでは反映された模様)。DC法改正の解説は以下をご参考。

確定拠出年金法の改正。その掴むべきポイントをまとめ!

世界的な共通事項

これまでランキングの内容について触れてきたが、年金制度や世界的な兆候としてはどのようなものが生じているか紹介したい。

定年後の余命が伸びている

実は、2009年のランキング調査開始時に調査対象国であった11ヶ国全てにおいて、2009年から2015年にかけて、退職後の平均余命は16.6年から18.4年へ延びていることがわかっている。平均余命は医療技術の発展等に伴い、年々伸び続けており日本が最長国であることは前述したとおりだ。ただ、一方で世界中においても平均余命は伸び続けており、この5年間程度の間で約2年間程の伸長があったことがわかる。

この平均余命の伸長が年金制度に与える影響は非常に大きく、財政上の負荷が高まることは必至だ。オーストラリア、ドイツ、日本、シンガポール、英国の5ヶ国では、平均寿命の延びに伴い、公的年金制度の支給開始年齢を引き上げたが、退職後の平均余命の延びには完全には対応してきれていないのが実情である。

高齢期においても労働参加率が増加している

引退後の高齢期における労働参加率が増加している点も世界的な流れと言える。この高齢者の労働参加率の増加は、経済にも個人に対してもよい影響を与えている。

一般的に年金制度に加入している期間や、掛金を拠出している期間が長ければ長いほど年金給付額は増加する傾向になる。また、年金制度の財政運営上も負担が減少され、より健全性を高めることができることとなる。
(国民一人一人にとっては、生涯労働時間が長くなるため、あまり喜ばしい事実ではないが)

2011年以降の対象国である16ヶ国では、55歳から64歳までの平均労働参加率は、2011年から2015年にかけて、57.9%から62.2%に増加したとのこと。年率1%以上の増加が見られ、非常によい影響を与えてきていることが示されている。

高齢者の労働参加率には限界があるものの、労働参加率の改善については世界中で大幅に増加する余地を残しており、これは今後多くの年金制度の持続性を高める鍵となるとレポート内では指摘されている。





まとめ:経済成長と連動するのが年金制度

世界の年金制度の中で、日本の年金制度はどう映っただろうか。ランキングの順位だけで、制度の仕組みを語ることは決してすべきではないことはわかるだろう。

日本は世界でも最長寿国であるにも関わらず、他の国と比べて支給開始が早いことや賃金の後払い的性格を持つ退職一時金制度の存在などは日本の特徴とも言える。

一方で、世界的に見ても政府債務の水準は極めて高い(ように見えてしまう)。そのため、外国から見た日本の状況はとてもまともな財政状況には見えないのかもしれない。この点についても今後は改善すべきなのだろう。

昨年ギリシャは国家のデフォルトに直面し、財政緊縮のために年金減額を実施せねばならなくなった。日本の場合は、ギリシャと違い円建てで資産を持っていることから同じような理由でデフォルトにはならないだろうが、この年金制度のランキングを上げるためには給付水準の低さや支給期間の長さ、国家の債務を改善しなければいけないと考えられる。

ただ、正直な話、当該レポートが参照しているOECDの統計についてはデータが不十分なこともあり、日本の年金制度の現状を十分に反映できていないと言える。すでにマクロ経済スライドを導入し、その発動できる環境を整備している現在の日本では、あまり参考とならないレポートとなってしまっている感が否めない。

私的年金制度の状況やマクロ経済スライドによる財政均衡の仕組みなどを考慮した場合には、世界的にどう映ってくるのかは興味深いところではあるが、やはりこれについても(統計を作る)前提次第の話となってしまうため、(税制はもちろん歴史的な背景も踏まえた)世界的な比較というのはやはり難しいというのが筆者の思うところだ。

さて、当ランキングは毎年11月にリリースされており、また今年度版が今年の11月頃にリリースされるだろう。その機会に日本の動向が変化するのか、継続してウォッチしていきたい。

(参考文献)Mercer Melbourne Global Pension Index


人生を確実に予測する ロジカル・ライフプランのすすめ


図解わかる生命保険(2015-2016年版) [ ライフプラン研究会 ]


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