平成29年度の年金額はマイナス改定?それはなぜなのか、解説してみる

今年も厚生労働省から年金額改定率が公表された。これは公的年金の年金額を改定するもので、毎年発表されている。通常の経済環境では、物価変動によって年金額の水準を調整していかないと、実質的な価値を担保できなくなってくる。

また、物価変動以外にも賃金水準、平均寿命の伸長等、様々な要素で年金額の水準は決定される仕組みを採用しているため、毎年この1月に翌年度の改定率をどうするか公表されているわけである。

今回は、今年の年金額の改定について紹介する。なお、一般読者にわかりづらいテーマであり難しい箇所が多少あることは先に断っておきたい。すまぬ!!

背景

平成29年度の年金額は平成28年度から0.1%の引下げを行う予定となった。これは、総務省から公表された「平成28年平均の全国消費者物価指数」(生鮮食品 を含む総合指数)が対前年比0.1%の下落となったことに起因する。

この”全国消費者物価指数”はいわゆる”物価変動率”と読み替えるとわかりやすいだろう。”昨年と比較して、物価が0.1%下がったので、年金額も0.1%下げますよ”というのが今年の趣旨である。

※平成29年度の年金額による支払いは、4月分の年金が支払われる6月 からとなる見込み

平成29年度の年金額

平成29年度の年金額は以下のとおり。

  • 国民年金:月額64,941円(前年度65,008円)
    当該金額は、老齢基礎年金の満額1人分の金額を表示している。
  • 厚生年金:月額221,277円(前年度221,504円)
    当該金額は、2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額を表示している。

厚生年金については、夫の標準報酬月額が42.8万円の夫が40年間働いており、妻がその40年間すべて専業主婦であったという場合を想定している。

そのため、学生納付特例を受けていたり、妻が専業主婦になる前の就労時における厚生年金加入期間がある場合などは年金額が変わってくる点には留意したい。

年金額改定のルール

公的年金の年金額改定ルールはかなり複雑だが、毎年決まったルールに基づいている。

年金額の改定については、法律上、物価変動率、名目手取り賃金変動率がともにマイナスで、名目手取り賃金変動率が物価変動率を下回る場合、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定年金)、受給中の年金額(既裁定年金)ともに、物価変動率によって改定することとされています。
(厚生労働省HP”平成29年度の年金額の改定について”より)

年金分野について普段から相当な時間接しているが、いつまで経っても一度読んだだけでは理解できない。一般の方なら尚更ではないだろうか。少し簡単にこの文章を解釈すると、以下のようなことを示している。

もしも、”物価変動率=マイナス”かつ”賃金変動率=マイナス”であれば、年金額は、”物価変動率で改定する”というルール。

ものすごく単純化して表現してしまったが、”今年は物価も賃金もマイナスだから、物価に合わせて年金額を改定するよ”という話なのである。

では、これが”物価がプラス”で”賃金がマイナス”だったら、どうなるのか。”物価がマイナス”で”賃金がプラス”だったら、どうなるのか。など、色々疑問はあるかもしれないが、その場合それぞれに応じて改定ルールは定められている。

ここでは詳しく記載はしないが、極端に年金財政や現役世代に負荷がかからないよう、賃金の増加以上に年金額を増額しないこと等のルールとなっている。

今年の経済指標はどうだったのか

平成29年度の年金額の改定率を決定する指標はどうだったのだろうか。以下のとおり、マイナスが並ぶ結果となったことがわかっている。

  •  物価変動率 ・・・▲0.1%
  •  名目手取り賃金変動率  ・・・▲1.1%
  • マクロ経済スライドによるスライド調整率 ・・・▲0.5%

”名目手取り賃金変動率”及び”マクロ経済スライドによるスライド調整率”については、一般的に馴染みがない単語だと思われる。国民年金の改定の際だけに出てくるような言葉なので、以下少し説明を加えておきたい。

名目手取り賃金変動率(▲1.1%)

名目手取り賃金変動率とは物価変動率、実質賃金変動率、可処分所得割合変化率を掛け合わせたもののことを指す。具体的には以下の計算式のように算出されている。

物価変動率(▲0.1%)・・・(平成28年の値)
×実質賃金変動率(▲0.8%)・・・(平成25~27年度の平均)
×可処分所得割合変化率(▲0.2%)・・・(平成26年度の変化率)
=名目手取り賃金変動率(▲1.1%)

これはすなわち、

  • 賃金変動率が”物価変動率”と物価の変動を除いた”実質賃金変動率”で構成されていること
  • 保険料を納める生産年齢の所得割合

の組み合わせであり、現役世代の手取り水準そのものを指している。この”名目手取り賃金変動率”が”物価変動率”を上回っているかどうかで翌年の年金額改定率が決定される。

今年度の場合は、物価変動率>名目手取り賃金変動率となった。

これはすなわち、現役世代の手取り水準が物価以上に下がっていることを指しており、”そういう場合は物価程度は年金額を引き下げましょう”、というのが、年金額改定率の意味合いになる。

スライド調整率(▲0.5%)

マクロ経済スライドと呼ばれる年金額の給付水準を調整する仕組みを公的年金は採用している。

 「マクロ経済スライド」とは、現役被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率が設定され、その分を賃金や物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するもの。したがって、平成29年度の年金額改定においては、マクロ経済スライドによる調整は行われません。
(厚生労働省HP”平成29年度の年金額の改定について”より)

現役世代が減る影響は現役世代から徴収できる保険料金額の減少につながる。また、平均余命が伸び続ける影響は受給権者に支給する給付総額が大きくなることにつながる。もちろん永久に現役世代が減る訳ではないし、永久に平均寿命が伸び続ける訳ではないのだが、これらが与える影響度合いは相当にして大きい。

この悪影響を相殺するために、受給権者の年金額を調整することをスライド調整と呼び、この調整率のことをスライド調整率と呼んでいる。具体的には今年度の数値を踏まえると以下のとおりとなった。

公的年金被保険者数の変動率(▲0.2%)・・・(平成25~27年度の平均)
× 平均余命の伸び率(▲0.3%)
=スライド調整率(▲0.5%)

”現役世代が減ってる分、平均余命が伸びてる分を勘案するとこれくらいは年金額を下げないといけないよね”というのがこのスライド調整率の意味合いである。

ただし、今年度に関してはそもそも年金額の改定率がマイナスなので、本来もっと下げるべき年金額をちょっと高めに維持することとなった

公的年金の保険料(国民年金保険料)

国民年金の保険料は、平成16年の制度改正により、毎年段階的に引き上げられてきた。だが、平成29年度にようやく上限(平成16年度価格水準で16,900 円)に達して、以後、その水準は固定される。

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実際の保険料額は、平成16年度価格水準を維持するために、名目賃金の変動に応じて毎年度改定され、以下のとおりとなった。

  • 平成29年度の国民年金保険料額は16,490円(月額)
    (平成28年度から230円の引上げ)
  • 平成30年度の国民年金保険料額は16,340円(月額)
    (平成29年度から150円の引下げ)

※平成16年度水準では保険料額は16,900円となっている。名目賃金が平成16年度と比較して減少しているため、今年度、来年度の保険料額も減少している

過去の年金額改定率の推移

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(厚生労働省資料より筆者作成)

年金額の改定率はこれまで”実際の改定率”と”本来の改定率”がしばしばあった。

平成11年度から平成13年度にかけて、年金額の”本来の改定率”はマイナスとなったが、その当時の小渕政権、森政権はマイナスの改定を行わず、将来の物価上昇時にこの3年間のマイナス分を解消するという名目で年金額を据え置いた経緯がある。

その後、平成20年度になって、やっと改定率はプラスに転じるも翌年には大幅マイナス。結局過去に据え置いた高い水準の年金額をいつまでも給付し続ける赤字の仕組みとなってしまった。

平成24年度には”実際の年金額”の水準と”本来の年金額”の水準の差は2.5%も広がっており、こうした将来にツケを回す年金の仕組みを解消するため、平成24年度~平成27年度に年金額を引き下げる措置を取ることとなった。

20170129_009
(厚生労働省資料より筆者作成)

累積改定率をグラフで示すと上図のとおり。平成11年度から平成27年度まで、”累積改定率”が”本来水準の累積改定率”を上回っていることがわかるだろう。

年金制度はそもそも本来の水準以上の高い給付を支払い続けて、うまく機能するようにはできていない。しかも、平均寿命の伸長とともに年金額の水準を調整するマクロ経済スライドもこの期間は発動されていない。

すなわち、15年以上の間財政悪化をし続けており、年金財政は劣化し続けていたのである。

現在の年金額の水準は高いのか?

現在の年金額の水準は、特例水準と呼ばれた本来水準との乖離も解消されたため、以前よりも低い水準にあることは確かである。ただし、依然として平均寿命の伸長と過去のツケによって悪化した年金財政の解消はされておらず、年金額は高止まりしている状況にある。

昨年成立したマクロ経済スライドのフル発動法案によって、上記のツケはより早期に解消できるようになることが見込まれている。そうすることで、将来の年金額水準をより高い水準とすることが可能となってくる。

まとめ:年金額はこれからも均衡水準まで下がり続ける

公的年金の年金額改定の仕組みをわかっていると、政権による介入がなければ、具体的にどの水準まで引き下げるべきであるかは5年に一度の財政検証で明白とされている。

ただ、現在は財政検証で課した経済成長のワーストパターン(物価も賃金も上昇しない縮小経済)に該当する年もあり、そもそもの前提に立ててもいない衰弱した日本経済があるのも事実。

今後も年金額は下がり続けるが、少なくとも多少の経済成長ができる日本経済になれば、年金制度は明るい方向に向くことができるだろう。

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