ESOP?イソップ?日本版ESOPとは何か調べてみた

2015年11月に保険代理店業の株式会社アドバンスクリエイトという会社が、株式給付型ESOPを導入したとの公表があった。何度か耳にはしていたが、なかなか馴染みがなかった株式給付型ESOPという言葉。良い機会なので、その仕組みについて簡単に調べてみた。

株式給付型ESOP(J-ESOP)ってなんだ?

株式給付型ESOPを話す前にESOPってそもそも何だという疑問はあるものの、まずは「J-ESOP」に関するWikipediaの説明を見てみよう。

会社による金銭の給付に基づいて購入され、積み立てられた株式について、従業員が退職時等に清算給付を受けるもので、三菱UFJ信託銀行が開発したストック・リタイアメント・トラスト、および、みずほフィナンシャルグループが開発した株式給付信託(J-ESOP)がある。
米国をはじめとする欧米諸国で制度化されているESOPと同様の、会社従業員に対する雇用者会社による株式給付と、これによる資本の分散所有を日本法上で実現することを目的とする退職給付型信託スキームである。(ESOPを参照。)

この上の文章をぱっと読む限りものすごく難しく思えるのではないだろうか。

非常にざっくりした解釈をするのであれば、退職給付を株式で支給する信託手法と言うことができよう。米国版のESOPと日本版ESOPでは、その解釈の範囲がやや異なるようで、米国版ESOPは”退職時株式給付”のことを指すが、日本版ESOPの場合は”退職時株式給付”および”従業員持株会”の両方のスキームのことを指すようである。

これは、日本で退職時株式給付制度の仕組みが導入される以前から、従業員持株会に準じた制度が導入されており、古くは戦前の、”兼松房治郎商店”において類似の仕組みがあったことから今に至っているとのこと。

実際の導入事例

J-ESOPの導入状況

新日本有限責任監査法人の調査では、平成26年1月時点で216社が導入しており、そのうち株式給付型のESOPを導入している会社は61社あったとのこと。

【一覧】従業員株式所有制度(いわゆる日本版ESOP等)を導入している会社(平成26年1月調査)

また、最近でもJ-ESOPの導入事例は継続してあり、平成27年11月に保険代理店業のアドバンスクリエイトが株式給付型J-ESOPを導入した。

株式会社アドバンスクリエイト 株式給付信託 (J-ESOP )の導入に関するお知らせ

制度概要はごくごく一般的な退職給付制度

具体的な制度概要はというと、

・役員を除く従業員に対し、勤続年数などに応じて毎年ポイントを付与する
・一定の条件により受給権を取得したときに蓄積したポイントを同社の普通株式と交換して給付する

内容だけ読めば、ごくごく一般的な退職給付制度であって違いが株式で給付するという点だけだ。

同社は「株価や業績と従員処遇連動性をより高め経済的な効果を株主の皆様と共有することにより、株価及び業績向上への従業員の意欲や士気を高めること」を目的であると述べている。

信託スキーム

当該制度のスキームとして、みずほ信託銀行と信託契約を結び、再信託受託者である資産管理サービス信託銀行㈱が2015年11月、約3億円相当の株式を取引市場から取得したとのこと。信託に関わる資金は全額を同社が拠出するため、従業員の負担は発生しない仕組みとなっている。また、信託の終了期限は設けておらず、制度が存続する限り信託も継続するとのこと。

米国版のレバレッジドESOPでは、信託による借入は行わず、代わりに給付予定資産の現金による前払い企業拠出によって運営されることを前提としている。そのため、レバレッジドESOPのスキームは、会社の将来資産を担保とした借り入れを行うため、債務不履行のリスクが生じる。

だが、今回のように日本版ESOPでは前払拠出を行ってしまうことから、給付資産の安全性が高くなることとなる。また、その一方で、導入時における会社の負担が大きいものとなっている。

ESOPの会計処理は?

日本版ESOPについては、「従業員持株会型」と「株式給付型」で会計処理を異とする点はあるものの、大きくは信託に対して総額法(信託の資産及び負債を企業の資産及び負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上する方法)を適用する方針だ。

このため、ESOP信託が保有するESOP導入会社株式については、「自己株式」として、貸借対照表上の株主資本の部から控除する形で表示されているケースが多いと考えられる。

J-ESOPの会計処理については平成25年12月にASBJから実務対応報告が公表されており、詳細についてはこちらを参照。

ASBJ 実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」の公表

株式給付型ESOPのメリット、デメリット

具体的にこの株式給付型ESOPのメリット、デメリットはなんだろうか。将来的にさらに普及するものなのだろうか。

メリット

従業員の企業業績に対するモチベーションの向上

J-ESOPでは、従業員に自己株式が付与されるため、付与された株価が上昇することは従業員の報酬の増加と直結することとなり、従業員が企業業績を向上させるモチベーションとなる。また、その副次的効果として、企業業績の向上は企業自身および株主への利益と直結しているため、双方に利益がある仕組みとなっている。

自己株式や持ち合い株式の解消の受け皿

企業が保有している自己株式や従来から持ち合い株式を保有している場合にはそれらの解消の受け皿として、このJ-ESOPが活用できる。

買収防衛の一環

企業買収の防衛策の一つとして、従業員を安定株主として確保できる点もメリットの一つだ。もっぱら企業がESOPを導入する能動的理由がこちらであったりするという意見もある。

デメリット

従業員のモチベーションの低下要因

従業員が自己株式を取得後、株価が下落した場合には従業員の取り分は減少することとなる。これはつまり「企業業績に対するモチベーションの向上」と表裏一体であり、企業業績の悪化は従業員のモチベーションの低下要因に繋がる。

売却インセンティブ

従業員が株主となるため、株価が極めて高くなった場合には市場での売却インセンティブが働くこととなる。一斉に手放されるリスクもあり、株価乱降下の要因ともなり得る。

自社株報酬は今後も拡大傾向

2015年6月に適用されたコーポレートガバナンスコードで役員報酬として「自社株報酬」が注目され始めている。今回の記事のJ-ESOPについても、退職給付制度、従業員持ち株制度という種類の違いはあるが、自社株報酬のスキームの一つであることは間違いない。

自社株報酬には株式報酬型ストックオプション、株式給付信託、役員持ち株会などがあり、前述したメリットが得られるため、日本でも導入は拡大傾向であるといわれている。

ただ、大和総研の調べによると2014年末で上場企業の1割程度となっており、普及にはまだまだ時間がかかるとも読める。

しかし、日本では株式報酬型ストックオプションを導入する企業が増えているとはいえ、未だ上場企業の1割強(大和総研調べによると2014年12月時点で上場企業3,557社の11%にあたる384社で導入済であり、2013年調査時から85社増加)の導入実績であり、金額水準も報酬総額に占める割合が1割強(同調査では報酬総額の13%程度)の水準であることから、まだまだ発展途上とも言える。(引用:注目を浴びている自社株報酬と日本企業におけるその選択肢

まとめ:個人の資産を会社に依存させるのはほどほどにしたいね

ESOPにはいろいろと肯定できるメリットも多いが、一人の従業員の視点からすると毎月の給与以外の個人の資産についても会社に依存させるのはどうかなと感じてしまう。

個人も今や立派な投資家だ。投資は分散投資が基本であり、自分の会社が傾いたときに毎月の給与が下がる(もしくは解雇なり自主退職せざるを得なくなる)場合、株価はどうなっているだろうか。そういう想像をすると、さっさともらった株式を手放したい(現金化したい)と考えるが、持株会という特性上売りにくいというのもよく聞かれる。

役員の退職慰労金として導入する分には文句はほとんど出ないだろうが、従業員にまでそれを促すのはどうかなと感じてしまう。

もちろん会社側で部分的な補助があったり、会社から付与されたりと福利厚生の機能として従業員をサポートする制度とも言えるので、良い面もあることは覚えておきたい。

ただ、個人的な意見を言わせてもらえば、やはり現金給付でくれるのが一番いい。それが一番モチベーションが上がる。従業員なんて、そういうもんではないだろうか。

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