DC法改正解説その2(個人型DCの加入可能範囲の拡大)

その1では、「企業年金の普及・拡大」のための施策を紹介した。今回は、DC法改正の目玉(と筆者は思っている)である「個人型DCの加入可能範囲の拡大」について紹介したい。なお、個人型DCとは確定拠出年金(個人型)のことを指し、国民年金・厚生年金に上乗せして加入できる年金制度のことである。

そもそも、なんで個人型DCを拡大するの?

老後の貧困問題はいろんなメディアですでに話題になっており、つい昨年(2015年)は「下流老人」なんて流行語ワードまで出てきたくらい老後の生活が危ぶまれている。

実際に公的年金の給付水準はマクロ経済スライドにより現在の年金額から約3割前後減少することが見込まれている(細かい説明は割愛)。さらに、最近では厚生年金基金の健全化法と呼ばれる法改正により、会社がもつ企業年金の実施割合も減少傾向にある。

そんな社会情勢の変化も相まって、今後はより個人でも老後所得を確保することが必要であることが強く言われるようになってきており、昨年の社会保障審議会で厚生労働省より提案されたのが個人型DCの拡大案であった。年金業界の関係者は、企業年金をどのように普及させればいいか何十年も議論し続けてきたところに久々の良い知らせということで、受け入れられているという評判だ。

どんな人が加入できるようになるの?

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(出所:確定拠出年金法等の一部を改正する法律案(概要))

改正案では上図のように、これまで個人型DCに加入できなかった人々が改正後は加入できるよう門戸を広くする方向だ。

これまで個人型DCに加入できる対象者は、「自営業者等(第1号被保険者)」または「確定給付型の年金制度および企業型年金のどちらも実施していない被用者(第2号被保険者)」のみであった。日本全体における個人型DCの加入対象者は数千万人規模でいるが、この制度を利用しているのは平成26年度末でわずか21万人程度という非常にお寒い状況だ。

今般の改正は、昨年と一昨年で開催されてきた社会保障審議会の厚生労働省とのやり取りの中で厚生労働省側から提案されたものである。財務省とのネゴシエーションにどれだけのコストを掛けたのかは想像できないが、企業年金の拡大に資する大きな一歩と業界内では歓迎されており、その改正のポイントについては以下のとおりだ。

・サラリーマンが新たに加入可能となること
・公務員が新たに加入可能となること
・専業主婦が新たに加入可能となること

細かい拠出限度額などは税の公平性の観点から妥当なのか大いに疑問が出てくるが、その辺はお国の方で適宜調整してくれるだろう。



サラリーマンは拠出限度額が会社の企業年金によって異なる点に注意!

一般的にサラリーマンは被用者に該当し、年金制度上は第2号被保険者に該当する。勤める企業が確定給付型の企業年金を実施しているか、企業型DCを実施しているか、さらにはマッチング拠出を実施しているかなどにより掛金を拠出できる上限である拠出限度額が異なってくるため、確認が必要だ。

今回の改正では以下の図のように、企業型DC(マッチング拠出不可)である場合および確定給付型の年金制度を実施している場合にはこれまで加入対象ではなかったものが、改正後で加入可能となる。なお、企業型DCの制度を持つ企業の場合は企業型DC規約に定めた場合に限り加入可能となる点には注意が必要だ。法改正がされ個人型DCに加入しようと思っても、「会社が規約未整備のため加入できない」という状況が出てくるかもしれない。

また、今回改正の対象とならなかった企業型DC(マッチング拠出可)の制度ではあるが、こちらではすでにマッチング拠出と呼ばれる個人で掛金を積み増しできる仕組みが整備されていることから対象外とされている。

(余談ではあるが、今回の改正にあたる議論ではマッチング拠出自体の廃止も検討されていた。結果として存続することとなったが、すでにマッチング拠出を導入している企業等への負担等を考慮したのではないかと思われる)

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企業年金が企業型DCの場合

会社が実施している企業年金が企業型DCである場合には、マッチング拠出と呼ばれる加入者掛金を拠出できる仕組みがあるかどうかで個人型DCへの加入可能が決まってくる。

これまでは企業型DCの加入者が、自らの掛金を追加で拠出したくてもマッチング拠出を導入していない場合は拠出できなかった。今回の改正により企業型DC加入者についても個人型DCの加入可能範囲に含まれることとなり、新たな選択肢の一つになってくると考えられる。

ただ、一方で企業型DCでマッチング拠出を導入している先との公平感というものも気になってくる。現在の拠出限度額の規制では、加入者掛金は事業主掛金を超えることができないこと、事業主掛金と加入者掛金を合計した額が拠出限度額を超えてはならないことという制約がある。

おそらく事業主掛金と加入者掛金のそれぞれで区分し、拠出限度額についても分割することが想定できるが、この部分の整備によっては利便性が大きく変わるかもしれない。

企業年金が確定給付型の年金制度である場合

自分の勤めている会社が確定給付型の企業年金に加入している場合、つまりは確定給付企業年金や厚生年金基金に加入している場合にも個人型DCへ加入できるようになる。年額にして14.4万円の掛金まで拠出できるようになる。

金額が他の区分の被保険者と比べて若干少ないという印象があるが、これはすでに企業側で確定給付企業年金(または厚生年金基金)による老後所得が確保されているためであり、企業年金がない他区分の被保険者との公平性を考慮したものであろう。

これまでのDC法では、転職した場合などで個人型DCへ加入すると不都合な状況が起きていた。というのも、転職先の企業が企業型DCを実施していない場合には自己の年金資産を国民年金基金連合会つまりは個人型DCへ移換しなければならない。しかし、個人型DCの加入者となることはできないため(企業年金を有する会社の従業員となるため)、新たに掛金拠出をすることができず、ただ運用をするのみとなっていた。

この場合には、毎年運営管理手数料が自己の資産から差し引かれることとなるため、運用収益が十分に稼げていない場合(つまりは資産運用方法のほとんどを預貯金などに指定している場合)年金資産が目減りしていくという状況にあった。

今回の改正では、転職先に企業型DCがなかった場合でも個人型DC加入者として掛金を追加できるようになり、上記のような問題点は改善されることになる。

また、確定給付企業年金と合わせて確定拠出年金をすでに実施しているという場合には、事業主掛金の上限金額を年額16.6万円(月額1.55万円)とすることを規約で定めた場合に限り個人型DCへの加入が認められることになる。複数の企業年金に加入している場合には、自分の会社が拠出できるかどうかについて確認が必要だ。

これは主観的な意見ではあるが、人員規模の多い大企業ほど確定給付企業年金のような確定給付型の企業年金を実施していることが多い。大企業ほど給与水準が高いのは一般的に知られているところでもあり、これまでは税制優遇を受けてお得に貯蓄をしたい場合はNISAなどを活用することとなっていた。しかし、今回の法改正により老後資金として個人型DCへ掛金を拠出できるようになるため、貯蓄をできる金銭的に余裕があるサラリーマン層と税制優遇の恩恵をより大きく受ける所得の高いサラリーマン層が合致することになる。

中小企業においても、もちろん恩恵があるのは確かであるが、現時点である程度の貯蓄へ回せる稼得力が必要なのが悩ましいところだ。「大企業向けの優遇策だ!」とメディアに批判され、今後優遇枠を減らされたりしないかはやや心配の種である。

公務員も利用できる貴重な制度に変貌!

公務員にも今回の法改正の恩恵は大きい。公務員には企業年金そのものはないが、「年金払い退職給付」と呼ばれる企業年金に相当する退職給付制度が存在する。

この「年金払い退職給付」制度は、2015年10月に施行された被用者年金一元化法で廃止された職域年金加算部分の後継制度に相当する制度となっている。モデル年金額1.8万円の50%確定年金、残り50%終身年金という給付設計である。

モデル年金額の水準から考えるとわかるが、老後所得の年金にしてはあまりに小さい金額とも言える。もちろん公務員には別途退職手当が一時金として支給されるため、退職給付制度としてはトータルで成り立っていることになる。何がベストなのかは意見の分かれるところだが、政府としても「公務員も自分で積み立てられるなら、積み立てましょうという」のが大きな方針だ。

公務員が年間に拠出できる掛金額は企業年金のあるサラリーマンと同様の14.4万円として設定される見込みである。

奥さんの稼ぎも個人型DCに拠出する?

今般の法改正により専業主婦(主夫)が該当する第3号被保険者についても個人型DCへの加入が可能となる。新しく加入可能となる対象者の中でも最も高い年額27.6万円(月額2.3万円)の拠出が可能となる。この拠出限度額の水準は、企業年金のないサラリーマンと同額の水準であり、ある意味かなりの優遇策とも言える。

これまで専業主婦の確定拠出年金の問題については、サラリーマンと同様の問題が起きていた。つまり、今まで働いていたが結婚や出産を期に退職した場合、それまでの自己の年金資産が個人型DCへ移換される。しかし、第3号被保険者は個人型DCの加入者となれないため、掛金を拠出できず運営管理手数料により年金資産が目減りしていくという状況だ。

法改正で第3号被保険者が個人型DCへ加入できるようになり、上記のような問題点は改善されるだろう。

しかし、一方で様々な疑問点も残ることになる。そもそも第3号被保険者の年収は130万円未満だ。元々所得がゼロないしは非常に少ない中で老後資金に拠出できるだけの余力はあるのだろうか。夫の稼ぎが十分にあればもちろん可能なのだろうが、そうでない場合やはり拠出できるかどうかは非常に怪しい。そのため、稼ぎのよい夫の給与の余り分を妻の個人型DCに拠出するという状況が起こりうる可能性もある。

また、年収103万円未満では所得税はかからない(給与所得控除65万円+所得税基礎控除額38万円)。それを超えたとしても5%ほどの所得税であるため、税制優遇の恩恵はほとんどないと言ってもいい。逆にこれを逆手に取り、妻の稼ぎを夫の個人型DCに拠出するという方法も出てくるかもしれないが、それはマイナンバーで取り締まるということなのだろうか。

いずれにせよどの程度、専業主婦層に普及するかは怪しいものがあるが、今後の動向には注視したい。

まとめ:拠出限度額の水準は不明ではあるものの将来性のある制度に変貌!

これまで個人型DCの加入者は制度創設から10年以上経ったにもかかわらず、20万人程度に留まっていたわけだが、今回の改正によって大きくその加入者数を伸ばすのではないだろうか、と筆者は考えている。

元々、個人型DCは個人の自助努力を促進することを目的とした制度だ。どのグループに属しているとしても年間約20万円前後の拠出限度額が設けられ、税制優遇の恩恵を受けられる。

個人型DCの掛金は税引き後の給与から拠出されることとなるため、社会保険料を減らす効果はないものの、小規模企業掛金等控除の恩恵(つまりは所得控除)を受けることができる。年間の拠出限度額をフルに利用してなおかつ40年間利用した場合には、800~1000万円程度の資産を貯めることができる上に、毎年所得税の還付を受けられるいわば配当付きの貯蓄法とも言えるだろう。

先日DC法改正法案が参議院を通過したとの知らせもあり、施行日が2017年1月1日となることも決定した。これから個人型DCの時代がやってくるのかもしれない。

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