DC法改正解説その1(企業年金の普及・拡大)

今国会で提出されている「確定拠出年金法等の一部を改正する法律(案)」では様々な改正項目があるがその中でも企業年金の普及・拡大に向けた施策について今回は紹介したい。大まかな内容は、「簡易型DC」「個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度」の創設、DCの掛金単位の年単位化等の措置が講じられる。いずれもDC制度の拡大に寄与するものと考えられ、比較的業界関連の反応は上々な感触を受ける。

中小企業向けの取組

企業年金を普及・拡大するための焦点は、主に中小企業にどうやって普及させるかという点にある。まずは、足元の中小企業の状況を紹介する。

中小企業における企業年金実施割合は低下傾向。3割は一時金制度もない状態に。

以下は、企業規模が30人~99人の企業での退職給付制度の実施状況を2008年と2013年で割合比較したものである。こうやってみると、退職給付制度の実施割合は低下傾向となっていることがわかる。2008年から2013年にかけて年金制度が10ポイント減少した一方で、一時金制度がない企業が10ポイントも増加している。現在中小企業において退職給付制度そのものが縮小傾向にあり非常に悪い流れであることがわかる。

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(出典:確定拠出年金法等の一部を改正する法律案 概要より)

厚生年金基金制度の見直しで中小企業の受皿が必要

一昨年の法改正により厚生年金基金は厳しい財政運営基準が課されることとなった。その財政運営基準を満たすことができない場合には、5年間を猶予として解散またはDBなどの別の年金制度へ移行することが方針として定められ、法改正前に500を超える厚生年金基金は現在、250基金程度まで減少した。さらに、今後も解散予定の厚生年金基金は数多くあり、ほとんど残らないことが予想されている。

すべての厚生年金基金が解散するわけではないものの、現在残っている厚生年金基金の多くは中小企業で構成される総合型の厚生年金基金が大半だ。基金解散となり、会社が別の企業年金に移行する(または別途補填する)などの対応がされれば、よいが必ずしもそうはならないだろう。

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(出典:厚生労働省HP 厚生年金基金等の解散について 解散等の状況)

このように中小企業における企業年金は普及というよりも縮小の傾向にあり、今後さらに加速する恐れすらある。このような現状を踏まえ、今回の改正案では以下のような対策が盛り込まれている。

簡易型DC制度の創設

これまでDB制度においては、簡易基準に基づくDB制度や受託保証型DB制度など中小企業でも取り入れやすいように配慮された対策がされてきた。一方でDC制度ではこれまで中小企業に特化した対策というものは打ち出されてはこなかった。昨今の現状を顧み様々な専門家から中小企業にとって負担の軽い制度の仕組みを作るべきという意見があがり、新たに新しい制度の創設に向けて動き出したというのが経緯となっている。

そして、今回DC制度創設時に特に負担の多かった設立書類を簡便化できる簡易型DCの仕組みができるようになる。なお、当該制度は従業員数100人以下の企業を対象に設立できるようになる。

実はこれまでDC制度の創設時には以下のような書類が必要となっている。

 主な提出を要する書類 提出書類に係る確認事項
1)規約案 導入予定の年金制度の内容
2)確定拠出年金運営管理機関委託契約書(案) 規約上の委託業務、再委託業務の確認
3)資産管理契約書(案) 資産管理機関との契約
4)労働組合等の同意書 規約に係る労使合意がされているか
5)労働組合の現況に関する事業主の証明書又は被用者年金被保険者等の過半数を代表する者であることの事業主の証明書 同意書に係る労働者側の主体の証明
6)労使合意に至るまでの経緯 労使協議の検討・合意の経過
7)労働協約・就業規則等 加入者の一定の資格の範囲に係る職種
事業主掛金返還に係る懲戒解雇等の退職規定
8)退職金規程等の適用範囲を証する書類 加入者に一定の資格を定める場合に、退職手当制度等の適用範囲に照らして特定の者について不当に差別的でないか
9)移換の対象となる制度の規約、規程等 他の制度から移換する場合、その制度内容
10)厚生年金適用事業所であることを証明する書類 厚生年金適用事業所であることの証明
11)従業員説明資料 従業員に制度導入を前提に適切な説明がされているか
12)企業概要 業態・事業所の所在地・加入者の適用除外に係る職種の確認
13)概要書 当局による指導・監督の際の参考資料

中小企業では、企業年金などの福利厚生を扱うのは人事や総務のほぼワンマンが一般的である。こんなにも訳のわからん資料をいきなり行政に持って来いと言われてもハードルが高いのは容易に想像つくだろう(私自身もこんなにたくさんあったことに最近まで全く認識がなかったし、資料一つ一つが一般人からすると相当難しい書類である印象)。

今回の改正で設立できるようになる簡易型DCでは、「運営管理機関委託契約書」や「資産管理契約書」等の設立時書類を半分以下に省略できることや、行政手続を金融機関に委託可能となる。そのため、DC導入のハードルは大きく下がるのではないだろうか。

個人型DCへの小規模事業主掛金納付制度の創設

これは、個人型DCに加入している従業員に対し、事業主が追加で掛金拠出を可能になる仕組みだ。

通常、個人型DCの加入者は自分の給与から毎月一定の掛金を個人型DCに拠出し、資産を積み立てていく。企業型DCと比較して、事業主掛金がないため、現在の仕組みでは従業員にとってあまり魅力的とはいえないかもしれない(もちろん税制優遇の恩恵を受けることはできるが、手取りが減ってしまうため個人型DCを利用しているのは約18万人と非常に少ない)。

事業主が追加で掛金拠出できるようになった場合には、個人型DCに拠出すると自分の掛金とは別に会社からも掛金が拠出されることとなる。おそらく会社によって具体的な掛金額は代わってくるのだろうが、単純な給与の積み立て貯金などと比較すると、積み上げる金額だけで大きく増加することになるだろう。

導入企業がふえれば、個人の老後資産積立が大きく促進されるのではないだろうか。

【イメージ図】

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DCの掛金単位の年単位化

DC制度の掛金には拠出限度額というものが設定されており、毎月一定の金額までしか拠出できないルールがある。これまでは、その拠出限度額は月単位で規制されており、企業型DCの場合には月額5.5万円までとされていた。

しかし、前月に拠出限度額の使い残しがあった場合でも、翌月に繰り越して掛金を拠出できないため、払いたくても払えないという状況があった。

例えば、前月にDC掛金を4万円拠出した場合、その翌月に前月の余りの拠出限度額分(1.5万円)と、その月の拠出限度額分(5.5万円)を併せて7万円拠出することはできなかった。

改正後では、拠出の規制単位が年単位(月5.5万円→年66万円)となる。そうすることで、年66万円の範囲内で、賞与時に使い残し分の一括拠出等が可能となるわけだ。

一般的に企業型DCの掛金設定は、全加入者一律定額である場合、勤続別の定額である場合、給与の一定割合である場合など複数のパターンがある。定額である場合には、元々拠出限度額を超えないように設定されているだろう。

しかし、給与の一定割合が掛金となっている場合やマッチング拠出を認めている場合には、勤続年数が長い従業員ほど拠出限度額に到達するケースは多いと思われる。特に長期勤続の従業員は給与水準が高い傾向にあるため、税制優遇枠を活用できるようになるのは有効な施策と感じる。

法案概要説明資料によると、企業型DCにスポットを当てて書かれているように感じるが、おそらく企業型DCに限らず個人型DCにおいてもこれからは年単位で規制化されると思われる。そうすると、自ずと企業型DCを導入していない個人事業主や被用者にも恩恵があると思われる。

なお、この話は拠出限度額に到達しない若年層にとっては、ほとんど関係ないのが唯一残念なところなのかもしれない。

まとめ:個人型DCは企業年金の救いの杖となれるのか

個人型DCはまだ利用者が少なく、その機能をより拡充させればもっともっと普及していくはずだと筆者は思う。今回のような中小企業の従業員にとってメリットの大きい話はもっとアピールしていくべきと感じるが、いつになっても年金メディアは広告戦略で負けているのが残念でならない。

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