10月からサラリーマンの手取り給与が減ったのは本当?それは厚生年金保険料が上がったから

今月から手取り給与が減っているのにはお気づきだろうか。あなたの会社が給料を減らしたわけではなく、日本全体で皆の手取り給与が減っているのである。それはなぜかというと、この10月から厚生年金保険料が上がったからである。

大変残念なニュースであるが、今回は日本で働く現役世代にとって重要な厚生年金保険料について、確認しておこう。

厚生年金保険料が増額

今月から、厚生年金保険料が増額された。保険料率は、平成27年の17.828%から0.354%上がり、過去最高の18.182%となった。

厚生年金保険は、日本の年金制度であり、第2号被保険者(サラリーマンや公務員等)が加入する公的年金である。公的年金の財源は、主に加入者が拠出する保険料、事業主が拠出する保険料、国庫負担分、積立金からの運用収入で賄っている。

必ず知っておきたい日本の年金制度全体図
たしか2013年の厚生年金基金の解散を促す健全化法が成立したときに、ネットではこんなコメントが多く散見されたのを覚えている。「これから厚生年金なくなるの?」「今...
厚生年金の保険料率改定は平成16年の法改正で定められ、15年間かけて、最終的に18.3%へ引き上げることが、すでに決定している

そのため、来年10月に保険料率をさらに上げることで、ようやく保険料率を固定化できることとなる。

具体的な年間徴収額

具体的に年間でいくら保険料を徴収されているのだろうか。簡単におおよその金額を確認しておこう。

厚生労働省が公表している平成27年国民生活基礎調査によると、1世帯当たりの平均年収は、541万円とされている。厚生年金保険料は、事業主と従業員の折半の掛金率であるため、18.182%の半分、つまり、9.091%が従業員負担分の保険料率となる。

したがって、従業員負担分の年間保険料負担額は、541万円×9.091%=491,823円となる。

ざっくり、年収の1割弱が公的年金の保険料で引かれている計算だ。

実際計算してみて、結構な金額が引かれていることに若干驚くことだろう。いやはや悲しい現実である。。。

その他の保険料についても増額

実は、厚生年金保険料の他にも平成28年4月に、国民健康保険料の上限改定(標準報酬月額の上限額引上げ)があり、実質的な値上げが実施されている。
※これまで上限以上の給与水準であった人達は、より高い保険料が徴収されるようになったということ

また、介護保険料についても、国民健康保険料と同じ標準報酬月額に基づく保険料額を算出するため、実質的な値上げとなった。標準報酬が改定されるこの10月で保険料負担が増加している。

先のケースで試算すると、年間の保険料負担額の総合計は約80万円ほどとなる。
(国民健康保険料10.0%の従業員負担分、介護保険料率1.58%ととして算定)

過去の厚生年金保険料

過去の厚生年金保険料は、今と比べてどうだったのか。今ほど高い保険料を課していたのだろうか。確認してみると、

1970年の厚生年金保険料率(従業員負担分) 3.1%     保険料 約13万円
1980年の厚生年金保険料率(従業員負担分) 5.3%     保険料 約23万円
1990年の厚生年金保険料率(従業員負担分) 7.15%   保険料 約31万円
2000年の厚生年金保険料率(従業員負担分) 8.675% 保険料 約37万円
2010年の厚生年金保険料率(従業員負担分) 8.029% 保険料 約43万円
※2003年より総報酬制を導入したため、見かけ上の保険料率が減少している

2003年以前の総報酬制導入前の保険料については、標準報酬月額を36万円、年間賞与額は月給4か月分として算定。

~総報酬制について~
2003年以前の厚生年金保険料は、毎月の標準報酬月額に保険料率を乗じた金額と賞与額に1.0%の固定率を乗じた金額が年間の金額であった。賞与額は年金額の算定には含まれてはいない仕組みを採用していた。
2003年以後の厚生年金保険料では、賞与額についても年間収入額に応じた保険料率を課すこととしており、賞与額に係る保険料が将来受け取る年金額にも反映される仕組みとなっている。

お、1970年、1980年については物価水準が現在とは大きく異なるため、あくまで参考値であることにご留意いただきたい。

ただ、1990年以降は物価水準に特段の変化は発生していないため、約1.6倍以上に膨れ上がった現在の保険料負担がいかに重くのしかかっているか、感じられるのではないだろうか。

世代間格差

同じ年収で比較した場合、現在だと49万円の負担、26年前の1990年だと31万円の負担という結果をどう思うだろうか。

約1.6倍以上の税額(正確には保険料)を今の現役世代は負担しており、世代間格差にも目に余るものがある、と思う人がいてもおかしくはないだろう。

特に、現役世代が負担する保険料額と老齢期に受け取ることができる年金額を、昔の現役世代と比較すると、世代間格差が極めて大きくなっていることがわかる。



現在の受給権者の年金額

さて、昔の現役世代であった現在の受給権者は年間いくらの年金を受け取っているのだろうか。現在の法令上、入社から定年まで勤め、先の例のような所得水準であれば、夫婦合わせて年金額は21万円前後は受け取ることができる、と考えられる。

ただ、非常に残念なことに、今の現役世代は年58万円を払っているが、老後20万円をもらえるケースは少ないだろう。将来的にマクロ経済スライドにより年金給付水準の調整が行われ、所得代替率50%程度まで引き下げるからだ。

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厚生年金の将来

さて、今後厚生年金はどうなっていくだろうか。保険料は来年の引上げ後、さらに上げる必要は出てくるのか。いくつか最近浮上しているトピックについて紹介しておきたい。
(専門的な内容がいくつか入る点には了承いただきたい)

支給開始年齢の引上げ

現在の厚生年金では、標準的な支給開始年齢(いわゆる年金を受け取り始める年齢のこと)は現在65歳とされている。昔はこの標準的な支給開始年齢は60歳であったが、これについても法改正により引上げが行われ、現在の65歳に延ばされた形だ。

昨年、一昨年の社会保障審議会年金部会(いわゆる有識者会議)では、公的年金の支給開始年齢の引上げの是非についても議論がされている。また、昨年の財政検証においても「受給開始年齢の選択制」による効果が試算されており、その有効性に関しても調査が進んでいる状況だ。

現実的な話で、文字通りの”支給開始年齢の引上げ”が実施される可能性は少ないと思われるが、あくまで雇用との関係で必然的に支給開始年齢が上がるというケースは起こり得るだろう。

すなわち、昨年の財政検証におけるオプション試算のような、

  • 現在40年の保険料で満額給付となる基礎年金を、45年の保険料に拡大させることで給付増額を図る施策(合わせて在職老齢年金の停止措置を実施)
  • (年金額増額メリットが出てくる)受給開始年齢の選択制を導入

という案が現実的に考えられる。

このことからも「今後実施する可能性が十分ある施策」の一つとして、”支給開始年齢の引上げ”が位置づけられているのは、あながち間違いないだろう。

また、他の先進国の年金制度と比較しても世界一長寿である日本を差し置いて、より短命であるドイツなどが支給開始年齢を67歳と設定しているなど、現実的な施策であることは認識しなければいけない。

引退後から年金支給開始までの期間

仮に、支給開始年齢が70歳まで引き上げられた場合はどうなるのだろうか。

引退後から70歳までは無年金となる問題

高年齢者雇用安定法の改正により、企業団体の反発を抑え、65歳まで勤務することが法律上可能となっている現状がある。だが、さらに70歳まで定年年齢を延長した場合に、企業側がそれを受け入れられるのだろうか。

70歳まで企業は従業員を雇うのか

高年齢者雇用安定法の改正で、65歳まで企業は従業員の希望に応じて、雇用する義務が課せられた。しかしながら、今後支給開始年齢が引き上げられた場合にさらに雇用の延長を伸ばすことはできるのだろうか。

おそらく、仮に延長を受け入れるのであれば、そのときの現役世代の給与をさらに奪う形になることは避けられず、負の連鎖が続くことは容易に想像できる。また、政府自体が雇用延長を促進しない(またはできない)という状況も想定しうる。

消費税の値上げ等の新たな税負担

公的年金の老齢基礎年金部分(いわゆる1階部分)の財源の半分は国庫負担である。現在の仕組みでは、マクロ経済スライドの給付水準調整により、所得代替率を50%まで引き下げることで、年金制度を維持する予定となっている。

昨年実施した財政検証で、厚生労働省は公的年金が経済縮小シナリオを除けば、複数のシナリオで公的年金が維持できることを示している。

しかしながら、公的年金が維持できない経済縮小シナリオがもし現実のものとなったら、どうなるだろうか。

年金制度を保つ上では、先に述べた支給開始年齢の引上げ以外にも、さらなる給付水準の引き下げ、保険料率の引上げ(財政再計算廃止の主たる理由のため可能性は低いと思料)、国庫負担の引上げ(消費税等による財源確保)が考えられる。

いずれにせよ経済成長ができなければ、何かしらの負担を強いられることは必至である点については、理解しておかねばならない。

まとめ

かなり今回はネガティブな話を中心に記載してしまったが、これは公的年金の事実だ。

厚生年金の給付水準を下げる点や、支給開始年齢の引上げを検討している点など常に改悪する施策を国が打ち出しているイメージを持つかもしれない。

しかし、これらの施策の目的は、あくまで将来世代の年金水準を守ることにある。現在の受給権者が受け取っているような高い水準にある年金額をこのまま垂れ流しにすれば、財政悪化は避けられないのは確実であり、マクロ経済スライドが長期化するのは必至だ。
(マクロ経済スライドが長期化すればするほど、将来世代の年金額の水準は低下していく)

いずれにせよ、経済成長ができなければ年金制度は崩壊していくのは間違いないと思われるし、個人がそれを容易に止めることはできないだろう。年金に対して正しい知識を持ち、状況に応じて取捨選択をしていかなければいけない、というのが現実である。

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