必ず知っておきたい日本の年金制度全体図

たしか2013年の厚生年金基金の解散を促す健全化法が成立したときに、ネットではこんなコメントが多く散見されたのを覚えている。

「これから厚生年金なくなるの?」
「今まで払ってきた保険料はどうなるんだ!?」
「年金の未納問題があるから、破綻したんだ」

これらのコメントは年金制度について正しい理解をしていれば、まず出てこない発言である。厚生年金と厚生年金基金が根本的に異なる制度であることや、未納問題が取り上げられるのは第1号被保険者に限った話であることなど、明らかにトンチンカンな話がネットには蔓延している。

最近ではずいぶんと情報のスピードが速くなり、一般の人でも簡単に調べられるようになった。それにも関わらず年金に関するリテラシーはいつまで経っても向上しないのは、なんて悲しいことだろう。というわけもあり、当ブログでもキチンと年金制度全体を俯瞰して理解できるような記事を一筆書こうと思う。

日本の年金制度は3階建て

まず日本の年金制度は3階建てだ。1階部分が全国民に共通した「基礎年金(国民年金)」、2階部分がサラリーマン等が加入する「被用者年金(厚生年金保険)」、3階部分が企業が上乗せで創設する「企業年金」だ。

20160427_2
(出所:厚生労働省 第4回社会保障審議会企業年金部会 資料「企業年金制度の現状等について」)
※数値は平成25年3月末現在の数字

1階部分:国民年金(基礎年金)

「基礎年金」である国民年金は全国民が加入する共通の年金制度だ。加入対象となる人は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者全員である。被保険者の種類によって第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3種類に区分され、保険料の負担方法が異なってくる。被保険者の種類については、後述の欄を参照。

なお、制度全体では6,700万人程度の規模となっており、非常に巨大な規模であることがわかるが、日本の人口が約1億2000万人ということを考えると、ずいぶん少ないのは確かだろう。ここに含まれないのはいわゆる年金受給世代か20歳未満の非就労者(学生など)となる。総務省の国勢調査では、20歳未満の若者の人口は大体2千万人程度と言われており、残った3千万人強がお年寄りということになる。追い打ちを掛けるように、これからさらに支え手が減っていくことが予想されており、年金制度の存続に危惧する声が絶えない。

国民年金の制度設計は、保険料納付期間に応じた定額の年金を65歳から終身にわたり受け取れる制度設計である。なお、財源の50%相当を税金で補填して運営している。

この税金で補填する仕組みは制度創設当初からの仕組みであり、年金給付額と保険料徴収額の差額は税補填するという前提でこの制度が作られている。

ここからは保険料の負担方法などの違いが出てくる被保険者の種類について押さえておこう。

~第1号被保険者~

第1号被保険者は、自営業者や20歳以上の学生、フリーランスで働く人などが該当する。2015年3月現在では1,800万人が対象となっており、日本のサラリーマンの半分弱に相当する規模である。

また、一定の要件を満たしていない派遣社員・短時間労働者なども該当する。ただ、年間所得が130万円以下で、下で述べる第2号被保険者の扶養家族である場合には、第3号被保険者扱いになり保険料負担がなくなる。若干、区分がややこしいがこの被用者の考え方は年金制度を理解する上では必需ワードといえる。

~第2号被保険者~

第2号被保険者とは一般的に民間サラリーマンのことを指す。対象者は最も多く約4,000万人となっている。ときどき文献によっては第2号被保険者等と記載となっている場合があるが、これは第2号被保険者のほかに、65歳以上で老齢年金給付の受給権を有する者を含んでいるためだ。

国民年金の保険料は厚生年金の保険料に含まれる形で会社を通じて支払っており(給与天引きされている)、給与(標準報酬)に応じた保険料が課されている。

~第3号被保険者~

第3号被保険者は、第2号被保険者の被扶養配偶者のことを指す。対象者は約900万人。被扶養配偶者となるには、年間の収入金額に一定要件があるため、社会全体で130万円の壁と呼ばれる労働調整が多いのが有名だ。保険料は負担していないが、国民年金には加入しているということになり65歳からちゃんと年金が支給される仕組みとなっている。扶養者が負担しているわけではないが、財源は厚生年金側から拠出される財政運営だ。



2階部分:被用者年金(厚生年金保険)

2階部分の被用者年金とは、厚生年金保険のことを指す。2015年10月より前は、公務員および私学教職員については共済年金に加入していたが、法改正により厚生年金に統合された。そのため、加入対象となる範囲は民間企業で働く従業員、公務員、私立学校の教職員で70歳未満の者が対象となる。

厚生年金に加入している場合、厚生年金保険料は基礎年金部分も含めた形で徴収されている。支給開始年齢に到達した際には、基礎年金と報酬比例年金を受け取ることができる。通常、支給開始年齢は65歳とされているが、2016年4月現在は経過措置(平成6年法改正により定額部分の支給開始年齢を60歳から65歳へ、平成12年法改正により報酬比例部分の支給開始年齢を60歳から65歳へ引上げ)により65歳より手前から受給することができる。

男女で支給開始年齢の引上げスケジュールが異なっており、男性の方が先に引上げられるスケジュールだ。

被用者年金は第2号被保険者のための制度となっており、第1号被保険者は加入することができない。また、一定要件(1日の所定労働時間が一般社員のおおむね4分の3以上で、1カ月の勤務日数が一般社員の所定労働日数のおおむね4分の3以上)を満たしていない短時間労働者などは民間企業で働いているとしても厚生年金に加入していないケースになる。そのような人々にとっては別の選択肢として以下のような仕組みが用意されている。

♦国民年金基金

国民年金基金制度は、自営業者等とサラリーマン等との年金額の差を解消する観点から、国民年金(老齢基礎年金)の上乗せ給付を行うことを目的とした制度だ。

第1号被保険者は厚生年金に加入できないため、厚生年金の報酬比例部分にあたる年金を準備することができない。そのため、高齢期に第2号被保険者と年金額に差が生まれてきてしまうこととなる。

この国民年金基金を利用することで、老後の年金額の上乗せ給付を用意することができ、第1号被保険者であっても老後所得を確保することができる。

現在の加入者数は、第1号被保険者のみが加入する制度ということもあり、対象者は45万人程度となっている。

国民年金基金の詳細についてはこちらの記事にて解説!
日本の年金制度シリーズ③(国民年金基金)

♦付加年金

付加年金とは、第1号被保険者および任意加入被保険者が、国民年金保険料に付加保険料を上乗せして納めることができる制度だ。年金を受給する際に付加年金の納付期間に応じて、受給する年金額を増やすことができる。2015年3月の時点では約80万人がこの制度を利用している。

実は、この付加年金の仕組みは極めてお得な制度で制度の仕組み上、たった2年間で元が取れてしまうという非常に優遇された制度となっている。詳しくは下の記事で解説。

老後に年金はいったいいくらもらえるのか ~具体的な年金額~

この他に第1号被保険者は確定拠出年金(個人型)に加入することもできる。後述する企業年金で合わせて紹介したい。

3階部分:企業年金

3階部分に該当するのが、企業年金だ。企業年金は過去に何度も再編をしており、現在もその渦中にあると言える。大きく分けて確定給付型の年金制度確定拠出型の制度に分類することができ、確定給付型の年金制度として確定給付企業年金厚生年金基金が該当する。2012年3月までは適格退職年金という年金制度が存在したが、法改正によって既に廃止された。

一方で確定拠出型の年金制度として確定拠出年金(企業型)確定拠出年金(個人型)と呼ばれる確定拠出年金が存在する。なお、確定拠出年金(個人型)は企業年金には含まれないが、現在企業年金がない第2号被保険者は当該制度に加入することができる。

~確定給付企業年金~

確定給付企業年金は、予め給付の内容を定めておき(約束をしておき)、高齢期(定年退職後等)に従業員がその内容に基づいた給付を受けることができる企業年金制度のことだ。一般的にDB制度(Defined Benefit)と呼ばれている。

DB制度はその運営形態によって2種類に分けられ、「基金型」と「規約型」に分類される。

「基金型」は、企業等が厚生労働大臣の認可を受けて法人(企業年金基金)を設立するタイプであり、設立した企業年金基金が年金資産を管理・運用していく。

一方で、「規約型」は、労使合意の年金規約を企業等が制定し、厚生労働大臣の承認を受け企業等が運営および年金資産の管理・給付を行う年金制度だ。

2015年3月現在、DB制度の加入者数は800万人弱となっている。ただ、近年は運用悪化に伴う企業の後発債務の問題や退職給付会計上の負債即時認識などの理由から後述する確定拠出年金に移行するケースも多い。そのため、現在はDB制度の加入者数は緩やかな減少傾向となっている。

~厚生年金基金~

厚生年金基金は確定給付企業年金と類似している部分も多いが、確定給付型の年金を給付する企業年金制度の一つだ。大きな違いとして、国の年金給付のうち老齢厚生年金の一部(スライド再評価部分以外)を代行するとともに、厚生年金基金独自の上乗せ(プラスアルファ)を行っている。特に、企業年金の制度設計において終身年金を要件として定められており、引退後の生活も含めて保証する従業員に手厚い制度だ。

ただ、残念なことに2012年に起きたAIJ事件を皮切りに、厚生年金基金制度の見直しが図られ、2014年より5年間の時限措置をもって、解散または他制度へ移行する(代行返上する)ことが決められている。なお、厚生年金基金として存続する選択肢もあるが、非常に厳しい積立水準の維持等が課されることとなるため、9割以上の厚生年金基金は解散・代行返上する方針となっている。

2015年3月現在では363万人の加入員がおり、当該制度の廃止に伴い企業年金制度全体の加入者の減少が懸念されている。

~確定拠出年金~

確定拠出年金はアメリカの401Kを参考にした制度で2001年10月に創設された。企業または個人が拠出した掛金が個人毎に区分され、自己責任で運用指図を行い、運用収益と掛金累計の合計額が給付額となる企業年金である。確定給付企業年金はDB制度と呼ばれているが、一般的にこちらはDC制度(Defined Contribution)と呼ばれている。

確定拠出年金は「企業型」と「個人型」に分類され、企業等が規約を作成し厚生労働大臣の承認を受けて実施する制度(つまり企業が運営・管理しているDC制度)が企業型DC、 企業年金を実施していない企業の従業員や自営業者等が加入できる制度として個人型DC(国民年金基金連合会が実施)がある。

企業型DCの加入者は505万人となっており、DB制度には及ばないものの緩やかな増加傾向を維持しており、今後も拡大することが見込まれている。一方で、個人型DCの加入者数は約21万人となっており、制度創設から10年以上が経過したが、あまり普及していないという現状がある。

実は個人型DCについては今年の国会に改正案が提出され、先日参議院を賛成多数で可決されたという知らせを聞いている。制度が大きく改正され、大幅な拡大が予想される。詳しくは以下の記事を参照。

確定拠出年金法の改正。その掴むべきポイントをまとめ!

自営業者こそ老後破産?

20160430_1
このように年金制度全体を考えると、自営業者等が属する第1号被保険者とサラリーマン等が属する第2号被保険者では加入している年金制度がずいぶん異なることがわかるだろう。

サラリーマンは定年後、国民年金(基礎年金)と厚生年金は少なくとも受け取ることが出来る。これにさらに企業年金が存在すれば、その企業年金と会社から支給される退職手当、個人で貯めた貯蓄などを組み合わせ、その後の生活をやりくりしていくことになる。それでも足りない場合は働くことになる。

一方で、自営業者等はどうか。自営業者の場合、定年という概念がないので、多少長く働くということも考えられる。しかし、65歳から受け取れる年金は国民年金のみだ。もちろん別途、付加年金、国民年金基金、個人型DCに加入していれば上乗せができるとはいえ、本当に足りるのだろうか(まぁ、100%足りないだろう)

現役時代に厚生年金保険料を払わなくてよいというメリットはあるかもしれないが、老後は厚生年金を受け取ることはできない。第1号被保険者は現在1,800万人程度いることがわかっているが、上乗せの年金に加入しているのは合わせても120万人程度だ。明らかに老後所得の確保が進んでいない現状がある。

まとめ:年金制度は複雑で誤解されやすいからこそ、正しい知識を持とう

年金制度は複雑だ。別にこれは日本の年金制度に限ったことでなく、海外の先進国の年金制度も非常に難解なものが多い。

「保険料に見合った給付を受け取れるのか」といった給付負担倍率の問題や年金破綻論などの問題について様々なメディアが歪曲して伝えており、年金制度が複雑かつ国民から誤解されやすいものとなってしまっている。

週刊誌では年金破綻論が特集なり記事なり書かれることがここ数年多いが、その多くが明らかなミスリーディングによる編集であったり、根本的に専門家が介入しておらず、素人が書いた記事であるものが実は多い。

実を言うと、年金制度に関する専門家の間では、あまり年金破綻論を唱える人はいない。公的年金を肯定することで飯を食う人はむしろ少数か一部であるので、本当は破綻方向に向かった方が業界全体では仕事量は増えるのかもしれないが、それよりも年金について加入者一人一人が正しく理解してもらえるように発信することが何より大事だと常日頃感じる。

図解 年金のしくみ(第6版)―年金制度の問題点を理解するための論点40


10分でわかる得する年金のもらい方 [ 田中章二 ]

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です