ベーシックインカムって何?その効果について解説!

2016年6月5日にスイスで国民投票が行われた。なんの国民投票かというと、「ベーシックインカムを導入すべきか」の国民投票だ。日本ではあまり認知されていないベーシックインカムという施策(景気対策として同様の仕組みが使われる場合があるが、一般的には社会保障の仕組みとして提唱される場合が通例だろう)ではあるが、具体的にどのようなものか今回紹介したい。

ベーシックインカムとは何か?

そもそもベーシックインカムとは何なのだろうか。ウィキペディアによるとこのように記載がある。

ベーシックインカム(basic income)とは最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するという構想。(引用:ウィキペディア

簡単に言うと、「国民にお金あげるから、福祉とか諸々を提供しない代わりに、それでなんとか暮らしていってね!」というシンプルな社会保障政策なのである。

ベーシックインカムの背景には一般的に、生活保護や最低賃金、失業保険などの社会保障を支える仕組みの中で生じる不公平・格差を解消したいと言った考えがベースとなっている。現代の生活保護や最低賃金のような個別的な対策においては問題も多く、行政側の負担も多大なものとなっていることがこのベーシックインカムを望む背景にある。

ベーシックインカムの効果

では、ベーシックインカムを導入することでどのような具体的効果が得られるのだろうか。これもWikipediaを見るとこういった記述がある。

ベーシックインカムは、年金・雇用保険・生活保護などの社会保障制度、公共事業を縮小することにより、「小さな政府」を実現するのに役立つといわれている。また、最低限の生活を保障という点から、企業は雇用調整を簡単に行うことができるようになり、雇用の流動性が向上し、新産業創出などの効果があるという意見がある。(引用:ウィキペディア

その中でも特に大きい効果は以下のようなものがあるだろう。

貧困対策

ベーシックインカムはその給付水準によって効果の度合いが異なってくるものの、一般的に一定の所得以下の人々に対し大きなメリットを与えると考えられている。

現在の日本では「ワーキングプア」という問題があるように、働いていても年収が200万円を下回っており、貧困層から抜け出せない状態であり、なおかつ社会保障における救済対象とならない層が存在する。

このようなワーキングプア問題についてもベーシックインカムの導入により、公平な社会保障を提供することで貧困層からの脱出を助けることが可能となる。

社会保障制度の簡素化・行政コストの削減

生活保護制度や失業保険、障害給付や年金制度と言った社会保障はすべてベーシックインカムに統合することが可能となってくる。一元的に管理・運用することが可能となってくるため、行政コストを削減できるというメリットが生まれる。

なお、この社会保障制度の一元化により頻繁に問題になっている生活保護の不正受給問題が解決できる、と言われている。

非正規雇用問題の緩和・ブラック企業の淘汰

ベーシックインカムが導入されれば、無条件での一律給付が実施される。ワーキングプアの問題とも密接に関連するが、失業時にもベーシックインカムによる生活保障があるため、非正規雇用の雇用の不安定さをサポートする仕組みになると言える。

また、従業員を雇う企業側にとっても社員の生活のために無理して雇用継続をする必要がなくなるため、企業の経営効率が良くなるという意見もある。(これは雇用規制の緩和につながる、という側面を合わせ持っている)

さらに、仕事を辞めても生活保障となるベーシックインカムがあるため、不本意な労働をしている人々が仕事を辞めることができる点も挙げられる。労働者が劣悪な労働環境下で働かせるブラック企業で働いている場合には、労働者側の自由意志で辞めることが可能となるため、ブラック企業が自然淘汰されていくことも指摘されている。

ベーシックインカムの副作用

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一方でベーシックインカムには、財源の確保や、労働意欲に関する課題が存在することが知られている。

給付に必要な財源をどこから捻出するのか

まず問題となってくるのが、給付に必要な財源をどうすのかという点である。一般的にベーシックインカムは現在ある社会保障の代替となるため、社会保障費をもともとの財源とすることが考えられる。

一部の識者によると、年金・生活保護・雇用保険・児童手当や各種控除をベーシックインカムに置き換えることで、1円も増税することなく日本国民全員にベーシックインカムを支給することが可能である、と提唱する意見がある。

具体的には以下のとおりだ。

平成25年度の社会保障費用統計(国立社会保障・人口問題研究所)によると、日本の社会保障給付費は平成25年度で総額110兆円であり、ここから医療の35兆円を差し引くと約75兆円となる。これを日本の人口を1億2千万人と仮定して、単純に除すと月額5万2千円となる。

社会保障費用統計(平成25年度)

現在の税制の仕組みを維持した状態で支給できる金額が、かなりラフな計算ではあるが、支給額5万2千円(月額)ということなのである。

「なんだ、増税しなくても、結構簡単に財源は見つかるじゃないか」と思うかもしれないが、このような試算はあくまで現行の社会保障が全くないフラットな状態が前提となっている。

財源の半分は年金に使われているお金

根本的な問題として、社会保障費用のうち年金が約50%(金額にして約55兆円)であることから、増税なしでベーシックインカムが可能という意見は”絵に描いた餅”としか言いようがない。

元々の年金制度の財源(ここでいう約55兆円)を全国民に分配してしまえば、見た目上は公平な制度になるかもしれないが、これまでの負担実績や現時点での負担割合は全く考慮されなくなる。

細かいことはこれ以上書かないが、社会保障費の財源には基礎年金等の社会保険料収入も含まれている点が致命的であろう。これらの点を十分考慮しての意見かは非常に疑わしい。

制度移行の複雑さ

たしかに、ベーシックインカムは非常にわかりやすい制度ではあるが、それはあくまでベーシックインカムだけで運営されている場合の話だ。

日本の社会保障制度はそもそも再分配の考え方から、複数の社会保障機能を有しており、年金などは加入実績に伴って支給額が決定される仕組みを有している。

そのため、ベーシックインカムを導入しようとしても、これまでの加入実績や拠出額を無視することは、あまりに不公平であるのは確かだ。仮に本当にベーシックインカムが導入されるのであれば、現在までの社会保険料等の拠出記録を加味した上で、ベーシックインカムとは別の給付上乗せ措置を用意するのは必須であろう。

もちろん、その代替制度はベーシックインカムを導入した時点で20歳以上の人が対象となることから、完全なベーシックインカムが導入されるまでは少なくとも70~90年程度要することは想像に易い、と言える。
(単純に、65歳以上の国民へ終身年金を支給する現在の年金制度の場合、現在20歳の人が全員死ぬまでは代替制度が必要となるため)

労働者のモチベーションが低下

また、別の副作用として労働者のモチベーションが低下することが挙げられる。働かなくても生きていけるという状況下では、労働者の勤労意欲が低下し、無責任になる動機付けが起こるという指摘もある。また、経営者が安易に解雇を行う、ベーシックインカムの分だけ給与を減額するという意見もある。

正直、ベーシックインカムの分だけ減額とはいかないまでも、昇給等を緩やかに抑えるような人件費抑制策を企業が採用できる余地を与えるのは、従業員にとって嬉しい話ではないだろう。

もっと深刻な問題として、過酷な条件下での労働に対する就労人口が極端に減ってしまうという懸念も指摘されている。これはつまり、厳しい労働条件を強制できないことが社会全体の効率性や社会の機能を著しく落としてしまういう危険性を孕んでおり、安易に予測できないとも言える。

福祉水準の低下

前述したとおり、ベーシックインカムの財源は現行の社会保障費と考える前提だ。そのため、ベーシックインカムは現在提供している社会保障を失う代わりに金ですべて解決しよう、という施策とも言える。

現実的にはそんな乱暴な議論にはならないと思うが、形式的な最低限の収入を保証する代わりに、それ以上の社会保障を提供することは困難になるとの見方が強い。

これも程度問題になってくるが、必要に応じて更なる扶助も行えなくなる可能性があることから、福祉水準の低下を危ぶむという意見もある。収入状況や保有資産の状況に関係なく平等に現金が給付されるため、公的分配の平等性は確保されるが、制度設計によっては健康状態や困窮状態に関わらず給付が一律となるため社会的公正はかえって阻害される可能性が多いにある。

生活保護では、級地制度(地域の物価水準・生活水準の差を反映させる仕組み)等に応じて柔軟な対応が出来るが、原則一律に実施されるベーシックインカムでは、それが不可能で地域によっては生活水準を下げてしまうという批判もある。

日本国籍を持たない者への取扱い

日本の排他的な性格から日本国籍を持たない者への扱いが争点になると言える。現在の生活保護制度においても、外国人生活保護世帯の割合が高いことを糾弾した政党があったことが記憶に新しいが、ベーシックインカムにおいてもその給付対象をどうすべきかという点は難しい論点と言えよう。

ベーシックインカムの給付対象について日本国民に限定しない場合、移民問題と密接な関係が発生する。国庫収支が十分に計算できない状態で日本国内に移民が殺到し、国庫財政が破綻するという意見もあるため、安易に給付を認めるべきとは言えないとの意見がある。

反対に、日本国民(日本国籍保有者)のみを対象とした場合、非対象者には納税義務だけが存在しベーシックインカムを受けられないことが問題になるという意見がある。

日本の社会保障制度および税制度を理解した上で日本に来て就労するのであれば、その外国籍労働者は納得尽くであり問題がない、という解釈もできなくもない。だが、自分がただでさえ不便な海外で暮らさざるを得ない場合には到底納得がいかない理屈だろう。

ベーシックインカムの国際的事例

2016年夏に行われたスイスの国民投票は非常に注目されたが、スイスという国自体の特徴から容易に可決するとは筆者は到底思っていない。細かい理由は割愛するが、スイスの生活水準の問題や、最低賃金に対するこれまでの否定的結論など、国民の意識は決してWelcomeとは言い難い。
(スイスで提唱されたベーシックインカム案は、純粋な全員への給付を実施するものではなく、所得制限および年齢による給付額が異なる仕組み)

⇒なお、スイスのベーシックインカム導入に関する国民投票を反対多数により否決された。

2016年1月にはフィンランドでベーシックインカムを導入する知らせがあったものの、誤報とも聞く。

フィンランドでベーシックインカム導入と“誤報” 実際の進ちょく状況は?

また、過去にはオランダのユトレヒトでもベーシックインカムは導入された模様。実際にその効果がどうなったかは筆者未確認。

“ベーシック・インカム”必要最低限の給付をオランダで実験「幸福度が増す」

1975年にアメリカで導入された給付付き勤労所得税額控除(EITC)は大幅なコスト増加に見舞われた。

ベーシックインカムなどデタラメ?

海外では実験的にベーシックインカムを導入する事例は、複数あるものの、ベーシックインカムを導入することで著しい効果があったかどうかは未だ確認できていない。

日本におけるベーシックインカム導入

実は、日本においてベーシックインカムを導入したことはないが、ベーシックインカムに相当する制度は何度も導入されてきた。

最近では記憶に新しい「子ども手当」なんてのも立派な部分的ベーシックインカムの一つだ。民主党政権時に可決され実施された社会保障支援策の一つで、子どもがいる世帯に現金給付が行われるという非常にシンプルな現金給付型の施策だ。

また、さらに遡ると自民党政権時に「地域振興券」なるものがあった。昭和世代の方ならきっと覚えていると思うが、未成年一人当たり2万円の商品券が配られる、というベーシックインカムに準じたバラマキ政策だ。もちろんこれは社会保障目的というよりは、地域経済活性化の景気対策として実施されたものであるので、ベージックインカムの理念とはややずれるところではある。

2017年の衆議院選挙での争点となるか

2017年夏の衆議院選挙においては、小池百合子氏率いる希望の党がマニュフェストにベーシックインカムを掲げている。

ただし、政策について詳細な情報が公開されておらず(いや、むしろ政策に関する詳細は考えていない?)、ベーシックインカムの政策についてもシレっと以下の文章が記載されているのみである。

「ベーシックインカム導入により低所得層の可処分所得を増やす。」

正直、この一文だけでは具体的にどのような政策を実施しようとしているのかは皆目わからない。具体的な財源や制度導入で出てくる労働意欲への問題への対処など、未知な部分が多すぎるという印象だ。

なお、当該政策については、池田信夫氏がアゴラにて痛烈かつ至極真っ当な批判を展開している。

まとめ:財源さえあればいいのだけども

かなりざっくりしたまとめにしてしまったが、個人的な見解を言えば、「まずあり得ない」の一言だ。

日本に限らず世界中でもダメ人間というのは必ず存在する。子共を例にすれば、まだ想像は付くかもしれない。与えられたお小遣いで「今月はこれだけよ!」と母に何度も注意して言われたにも関わらず、翌日には全部なくなっているなんて子を見たことないだろうか。

大人になれば、金銭感覚や計画性というものを学習するため、ほとんどの人は計画的に支出をコントロールするだろう。だが、稀に100人に2、3人程度全くもってお金の管理ができないという人が出てくる。

そういう人は大抵コミュニケーションが得意で、優しさに溢れる誰かに集ったり、ヒモのような暮らしで生き延びたりと世渡りが上手い場合が多いが、その中の一部は、どうしようもなく貧困地獄を繰り返し周りに迷惑を掛けるのが関の山だろう。

ダメ人間の存在だけで、ベーシックインカムを否定しようと到底思ってはいないが、”絵に描いた餅”になるような施策であることが、政策の中身を見るだけで垣間見えてしまうのである。

働かなくてもお金がもらえてしまう、という環境にある人間が国際競争に勝っていけるのだろうか。そう思うとダメな人間を助長させるだけの政策にしか聞こえない。

ただ一方で、子育て世代などには恒久的なベーシックインカムを導入することは望ましいのではないかとも思う。大人の貧困は「とにかく働けよ!」と突き放すこともできるが、子供の貧困は状況が大きく異なる。親世代の収入が低減しているからこそ、こういった施策をベースにした問題の深堀りは貴重なのかもしれない。

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下流老人 [ 藤田孝典 ]


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